第37章 嫌だなぁ。
『回転しそうなベッドだね……。』
「回してあげようか?」
『やらなくていい!』
やはり回るのか、と項垂れていると、モトキに背後から強く抱き締められた。
「素敵な着物だね」
なんて言う彼の息が首筋にかかる。
妙に熱く感じた。
モトキが興奮しているからなのか、この部屋が少し暑いせいなのか。
カナエの肌が少し汗ばんでいる。
息遣いも荒く、頬が紅潮してきた。
『あの、ちょっと暑いんだけど、何かボーッとする……。』
「そんなに暑い?そこに横になってて。窓開けてくるから。」
熱がありそうとか、体の節々が痛いとか、体調が悪い時とは違う感覚だ。
いつもより酔いが回るのが早い気がするのは、シェリー酒のアルコールが高かったせいだろうか。
カナエは、おぼつかない足取りでベッドに近づき真っ赤なシーツの中に身を投げた。
(なんか、変だ。)
仰向けになってみると星空の天井がぼんやりと見える。
なかなか綺麗だな、なんて考えていると
モトキが心配そうに顔を覗かせた。
「大丈夫?」
『ん……よく分かんない……。』
そっか、とモトキは小さく呟いた。
同時にベッドの軋む音がした。
そして、太股に何かが這うような感触。
『あっ…………!?』
全身に電流が走ったようだった。
思わず腰が浮いた。
そちらに視線を送ると、着物がはだけて見えていた足を、モトキがゆっくりと舐めていた。まるで味わうかのようだ。
だが、それだけだ。
舐められただけで、この感覚は一体。
「効いてきたみたいだね。」
モトキはクスクスと笑っている。
先程までの心配していた様子はどこにもない。
「いつもより体が敏感になってるでしょ?刺激が欲しくて堪らないって顔してる。」
そんな顔をしているつもりは無い。
だが、確かに人肌が恋しい。
誰かに触れたいし、触れられたい。
誰かを抱き締めたい。
誰でもいいから抱かれたい。
体が疼いて仕方がない…………。
『ちょっと、何なの、これ……。』
「何って、これだよ。」
モトキはシャツの胸ポケットから、おもむろに小さな瓶を取り出した。
瓶にはピンク色の文字が書いてある。
【濡れるンです。】
「び・や・く、だよ。」
『えっ』
マジかよぉ………………。