第37章 嫌だなぁ。
「それで、いよいよマリージョアに向かうって時に襲撃されて、船がパニクってる時にさ、どさくさに紛れて皆殺しにしてやろうと思ったんだ。その時に若様が拾ってくれたんだよ。」
モトキの表情が明るくなった。先程までの様子が嘘のようだ。
「良い眼をしてる、って言われたんだ。」
彼にとっては突然現れた救世主なのだろう。
いきなりどん底に落とされた彼の人生を、ドフラミンゴが前途洋々な、光のあるものに変えた。モトキは救われたのだ。
良かったね……なんて、ホッとしてどうする。まだ情が残っているとでも言うのか。
これではダメだ。
一杯飲んで、気持ちを切り替えよう。
(きっついな、この酒……。)
『なんか漫画みたいな話だね。』
「漫画の世界でしょ?ここって。」
『帰ろうとは思わなかったの?』
「商船に乗ってる時に思ったよ。でも、その時は帰り方が分からなくてさ。」
『じゃあ、今は知ってるんだ。』
「うん。若様が調べてくれた。」
『愛されてるね……。』
でしょ、とモトキは得意気だ。
知っているなら世界で何が起こるか誰かに話すだけだ。付き合っていた頃、一緒に漫画を読んで、これは面白いと騒いでいた。
「でもさぁ、俺が知ってるのってチョッパーが仲間になる辺りまでなんだよね。若様の事も知らなかったし。」
知っているのは麦わらの一味がまだまだ駆け出しの頃。その上、モトキが現れたのはルフィが海賊王を目指す随分前だ。
ドフラミンゴにその名を出しても誰だか分かる筈もなく。
「色々話すのは止めちゃった。もう帰る気は無かったしね。俺、若様に生涯捧げるって決めたから。死ねって言われたら死ねるよ。」
凄い忠誠心だ。
" 家族 " として傍にいる者にしか分からないドフラミンゴの魅力がきっとあるのだろう。
「やっぱりさ、麦わらの一味がここに来たのはストーリーの一部なの?」
『うん、まあ……。』
「ルフィがドレスローザに来るとは思わなかったなぁ、何か色々世間を騒がせてるみたいだし………じゃあ、カナエは、これから何が起こるか知ってるんだ。」
『えーっと、どうかな……。』
カナエは目が泳いでいる。
「知ってるくせに。ファミリーの事、詳しそうだったじゃん。オタクみたいで怖かったけど……。」
『それは否定しません。』