第36章 何してんの!?②
「どこ行きやがった……!!」
「後ろだよ。」
一瞬だった。
屋根の上にいた筈のモトキとカナエ。
消えたと気付いた時には背後から声がした。
ゾロは決して油断はしていない。
相手は音速。
目で追う事は不可能だ。
「くそっ!!」
振り向きざまに斬り掛かる。
だが、そこにはもう誰もいない。
姿を現したかと刀を構えれば、すぐに消えてしまう。
モトキはゾロのまわりを前後左右、いくつもの残像を残しながら移動していた。まるで嘲笑うかのように。
「見てよ、あのゾロの顔。俺って凄くね?」
『別に。』
カナエはモトキに捕まったまま。
彼が移動する度、体に重力がかかる。
いきなりトップスピードになる感覚は、どこかの遊園地の様で。
だがアトラクションとは違って楽しめる筈がない。気分が悪いだけだ。
(こんな感じのジェットコースター乗った事ある……うぇ。)
大惨事になりそうだが、それは大人として我慢しよう。
それよりも気になるのはゾロの顔色だ。どう見ても不満爆発寸前。
特に攻撃を仕掛けてくる訳でもなく、ちょこまかと動き回って楽しそうにしているモトキが腹立たしい様だ。
「ふざけんなっ!さっさと掛かって来やがれ!!」
そう叫ぶゾロの胸元には、いつのまにやらウィッカが可愛くおさまっている。
彼女は随分焦った様子でゾロに何かを訴えていた。
「私を " 隊長 " の所へ連れてってくらさいっ!!」
ゾロの耳に、その言葉は届いているようだが、今はそれどころじゃねェ、と必死でこちらを目で追いかけていた。
(あ、やばい。ゾロもウィッカも、こんな奴の相手してる場合じゃない。)
行く手を妨げているのは自分達だ。
モトキがゾロに、くだらない敵対心を抱いたせいで、こんな事態を招いてしまった。
(私が原因……)
なんて思うのは自惚れている気がするが、間違いではない。
この場を何とか収めるのが自分の役目だ。何か良い方法はあるだろうか。
ゾロが自分の事を気にせず " お花畑 " に向かえるように。
モトキがゾロを追いかける事がないように。
(まぁ、こんな事しか思い付かないけどね。)
私が忘れられないってんなら、あんたの望み叶えてやるよ。
「モトキ!」
私はどうなっても大丈夫。
背に腹は変えられん!!