第35章 やるしかない。
だから連れて来たんだ。
そこまで考えてくれていたなんて。
しかし、トミダさんの組合の人みたいな格好でも気付く奴がいるのか。
そう言えば " 気付かれ難く " なるだけだと言っていた。
『ゾロ、ありがとう。危なかったのかも。気合い入れます!』
「おお。」
『ところで、ちょっと気になったんだけど……私、傷だらけなの?』
「なんだよ、知らなかったのか?自分の体よく見てみろ。首の後ろもだ。」
ゾロの言葉を聞いて首の後ろに手を置いてみる。肌の感触だけではなく何か硬い物に触れ、チクッ、と指に痛みが走った。
少し濡れている様にも感じる。
一体何だこれは、と手のひらを見てみると、真っ赤な血が。
『わー!!べっとりー!!』
よく見ると足や腕も擦り傷だらけだ。
全く気がつかなかった。
「さっき窓に突っ込んだ時だろ。ガラスの破片で切ったんだよ。細かいヤツが刺さってるぞ、首に。」
『マジかぁ!取って!取って!』
「暴れんな!!」
ゾロは腕の中で暴れるカナエを降ろし、何で俺が、とブツブツ言いながらも、小さなガラスの破片を一つ一つ取り除いている。
先程までは不思議と何も感じなかったのに、今はチクチクと地味に痛む。
『面倒かけた上に、こんな事させて申し訳ありません……。』
「面倒な訳あるか。お前のおかげだって言ったろ。……しかし根性あるな。普通の女は迷いもなく刀に飛びつかねェよ。」
ゾロは笑い声を含ませながら言った。
カナエは彼の中で、貧弱女から普通の女に格上げしたようだ。
『もう無我夢中で……。うっ!』
「痛むか?我慢しろよ。早く終わらせて妖精を探さなきゃなんねェ。」
『大丈夫。ゾロの刀が無くなるよりかマシ。でも、もう少し優しくお願いします。痛いです。』
「……うるせェ女だな。黙ってろよ。」
そう言うと、ゾロは自分の着ているシャツの裾をビリビリと破り、包帯の様にカナエの首に巻いた。 魔獣と呼ばれる男からは想像できない程の優しい手つきだ。
「……細ェ首だな。」
『え?』
「何でもねェよ。」
ゾロが何を言いたかったのか、よく分からなかったが応急処置は終わった。
さあ、次は妖精を。
二人が意気込んだ、その時。
屋根と屋根の間から何の前触れもなく白い布袋と刀が飛び出してきた。
「『あ。』」
意外と早く見つかった。