第35章 やるしかない。
「この国の女は男を刺すと聞いたろ!!お前みてェなのがやられんだよ!!」
『あっ!こっち見た!』
ヴァイオレットは、妖艶な瞳をこちらに向けてパチンとウインク。
なんて魅惑的な視線。
なんて艶やかな唇。
そしてあの艶かしいスタイル。
「『刺されてもいい~~~!!』」
ヴァイオレットが放ったハートの矢は、二人の恋の奴隷の心を射抜いた。
「お前は女だろ!さっさと行くぞ!!どっちだ!?」
そう聞かれても分かんないんだって。
なんて考える事を放棄してはいけない。
サンジはヴァイオレットに意識が移った。あとは秋水の居場所だ。
思い出せ。事態は一刻を争う。
「上か下がくれェ分かんねェのか!?」
『上か……下?……はっ!!!』
サンジがゾロを見失って、次にゾロが登場した時は、もう秋水を捕まえていた。
そして、小さな彼女に軽々ぶん投げられて、どこかの屋根の上から落下。
町のどの辺りで見つけたかは知らないが、きっと上へ行けば彼女に出会える筈。
ナイス、ゾロ。思い出したぞ。
『たぶん上!行ってみよう!』
「よし!!」
『そっちじゃなーい!!』
なぜ真っ直ぐ走るのだ。
ゾロの方向音痴っぷりを目の当たりにしたカナエ。
それどころでは無いと言うのに少しニヤついていて、なに笑ってんだよ、とゾロに気持ち悪そうな顔をされた。
投げ捨てられるかとも思ったが、ゾロはカナエを横抱きにしたままで屋根の上にあっという間に登ってしまった。
人一人抱えている身のこなしとは思えない。
「何が妖精だ!!ただの盗っ人じゃねェか!!!どこへ消えた……!」
ここからは勘で探すしかない。
しかし、よく考えると。
あとは勘だと言うなら自分は必要無いのではないだろうか。
自分がいる事でゾロの勘は鈍っている様だ。
むしろ邪魔者では。
『あの……、私なんて置いてった方が早く見つかると思うんだけど……』
「……まあな。だが、情けねェ話だ。お前が体を張って秋水を追いかけたから俺は気付く事ができた。そのせいで傷だらけになった女を置いて行けるかよ。」
『え……?』
「それに、あれだけの騒ぎになったら、 " 誰 " かがあの場に現れて " 誰 " かがお前に気付くかもしれねェ。黒い服を着ていてもトーリは一度気付かれた事があるんだ。お前も分からねェだろ。」