第35章 やるしかない。
イヤイヤイヤイヤイヤ……。
それは、おかしいでしょうが。
これはマズイと思い、カナエは窓の方へ目をやった。
少し開いた窓。
大きな布袋を括りつけられた、ゾロの愛刀 " 秋水 " が、窓に引っ掛かりガタガタと音を立ててもがいている。
ゾロを見ても、それに気付く気配が無い。
それどころか食事を再開してしまった。
物足りなかったのか追加注文までしている始末。
刀はもう、引っ掛かりが外れそうだ。
(あー!もう!これも私のせいかーい!!)
このままでは持って行かれてしまう。
カナエは窓に向かって走った。
本当だったらゾロが真っ先に秋水が無くなった事に気が付く筈。
ここは自分が走らず、彼に何とか気付かせるべきなのかもしれない。
しかし、切羽詰まった状況に体が先に動いてしまった。
『ちょっと待ったーー!!』
カナエは刀に飛びついた。
なんとか捕らえる事は出来たものの、怪力のトンタッタ族にカナエが敵う筈がない。
『ゾロ!!!』
「!?」
ガシャン!!と、ガラスが割れる音と共に、カナエは秋水ごと外に投げ出され、宙を舞った。
空中で体を自由に動かせる様な運動神経は持ち合わせていない。
力加減も上手く調整できない。
刀がカナエの手から離れた。
それをチャンスとばかりに、布袋と秋水は逃げて行ってしまった。
カナエだけが地面へ向かって落下して行く。思わず目を瞑った。この高さから落ちたら、命を落とす事はないだろうが骨の2、3本は折れてしまいそうだ。
だが、良かった。
先程、自分より先に地面に着地するゾロを視界の端に見た。
カナエの声は届いたようだ。
少しズレは生じたが、このまま秋水を追いかけて行けば全て元通りだ。
(骨折なんてしたことないけど……耐えろ!すぐそばに病院がありますように!!)
(あ、あれ。)
痛くない。
落ちた衝撃はあったが、体がどこも痛くない。打ち所が悪くて死んでしまったのだろうか。
この死に方の場合は元の世界には戻るのか?
それよりも、今自分は何だ?霊魂か?
カナエは固く閉じていた目を開けた。
目の前には分厚い胸板。
とっくに、ここには居ない筈の人がいた。
「貧弱女が無茶すんな!」
『えっ!?ゾロだ!』