第35章 やるしかない。
『藤虎は!?もう行っちゃった!?』
おっさんキャラに魅力を感じるカナエは
キョロキョロとレストランを見渡したが、既に彼はいない。
「藤虎か……。
お前が名前を知ってるって事は、あいつに出会すチャンスはありそうだな。」
ゾロがニヤリと凶悪な笑みを浮かべていた。
自分より強い相手を常に求めている彼にとって、大将・藤虎は願ってもない好敵手だ。
サングラスの奥で、鋭い三白眼がキラキラと少年のように輝いて見えた。
その曇りの無い瞳に、思わず口を開く。
『ゾロ、あの』
「おい。」
何かを言いかけたところで、ゾロがそれを制するように声を出した。
「いいのか?」
『あっ……。』
彼が言わんとしている事は分かった。
ここで藤虎の能力やら正体、更には、
また出会う事になる。奴はかなりの重要人物ですぜ旦那、へっへっへっ。
なんて事をゾロに暴露してしまったら、元の世界にまた逆戻りだ。
「俺は自分の未来なんて知りたくねェ。喋りてェんなら、俺のいねェ所でしてくれ。」
ゾロの凍てつくような目に、カナエは文字通り固まってしまった。
楽観的な奴は要らねェ、そんな目だ。
「おいコラ!まりもヘッド!レディに対して何だその態度は!!!」
「エロガッパは黙ってろ!!
うっかり口を滑らすような平和ボケしてる女は、どの道邪魔者だろ。元の世界に帰るのが身の為なんじゃねェか。」
サンジとゾロが、お互いにガンを飛ばし始めた。確かに彼の言う通り。
再びこちらの世界に戻れて、しかも憧れの麦わらの一味に囲まれて舞い上がっていた。
全て彼に見透かされていた。
何事にもストイックなゾロにとっては、カナエの浮き立った様子は苛立ちの対象だったに違いない。
そういえば、口をきいてくれたのは初めてだ。
『ごっ!ごめんなさい!!ゾロの言うことはごもっともです!!』
「だったら、さっさと帰」
『帰らない!!』
浮ついてしまった事は反省する。
でも、軽い気持ちで戻って来んじゃない。
ルフィ達や、この世界への気持ちも薄っぺらいモノなんかじゃない。
自分の居場所はハートの海賊。
ローとは、もう離れないと心に決めた。
『絶っっ対に帰らない。』
「カナエちゃん……。」
空っぽな自分には、もう、戻りたくない。