第35章 やるしかない。
町を動き回るからには異世界の人間だと分からないようにしなければ。
ローとおそろいの黒い帽子はどこへ行ってしまったのだろう。
だが今のところ、これについては問題ない。
錦えもんが能力で服を変えてくれた。
皆と一緒で全身黒い服だ。
ドレスローザには海軍が上陸している。
この中に異世界の人間がいたとしても、これならば気付かれる事は無いだろう。
(それにしても私は着物か。)
「おっさん強ェなァ!!何者なんだ!!?」
錦えもんは除いて3人とも洋装。
サンジもゾロもフランキーも、サイズのピッタリなスーツが格好いい。
ルフィの黒地にひまわり柄のアロハシャツも良く似合っている。
サングラスや眼鏡も、彼らの魅力を引き立たせていた。
顔の割れていないカナエには何も与えられなかったので、何だか味気無い。
「……へへ、そいつァどうやら……言わねェ方がァ、互いの為かと存じやす」
チビで見るからに東洋人なカナエには、スーツよりも着物だと錦えもんはイメージしたようだ。だが、これは彼の趣味だろうか。
(首がスースーする。)
衿が抜け過ぎている。背中まで見えてしまいそうだ。
最初は鎖骨丸見え、胸元まで見えそうなくらい広がっていたが、見せても良い谷間は無い。できるだけ前の衿を首元に近付けて、鎖骨が半分見えるくらいまでにはしておいた。
(花魁?芸妓さん?てか、この黒い着物じゃホントに姐さん的な……。)
「どんな立場であれ……只者じゃあねェな……」
せっかくなので髪を後ろでまとめてアップにしたら、サンジが目をハートにして、うなじが綺麗だと言ってくれた。
『ローに見られたくないような、見てほしいような……。』
「カナエちゃん?随分落ち着いていたようだが……平気だったか?」
『え?』
「お嬢ちゃんが動揺しねェって事ァ、こうなるのは必然だったって事だな。」
背後から声をかけられ慌てて振り向いた
カナエは、目を丸くした。
レストランのホールの床に、底が見えない程の巨大な穴がぽっかりと空いている。
と、言うことは。
(しまった!見逃してしまった!!)
この一大事を。
考え事をしていたとは言え、何も気付かなかった自分を後悔した。
皆の会話は聞こえていたが、
見慣れたアニメを流し見している気分になっていた。
馬鹿か、私は。