第34章 そんな気分じゃない。
「頂上戦争」より約二週間が過ぎた。
ルフィの療養を目的としたローの一団は
緊急特例により、女ヶ島湾岸への停泊を
許可されていた。
ハートの海賊団、ジンベエ、トミダは
海賊女帝ボア・ハンコック率いる
九蛇海賊団によって張られた岩場の狭い陣の中で、ルフィの目覚めを待っていた。
「トミダ屋、あいつが戻る可能性はあるのか」
「さあな。でも、スズキは帰りたいと思ってる筈だよ。だから、いつか帰って来るんじゃね?」
「適当だな。」
「ポ、ジ、ティ、ブ。」
「……何故そう言い切れる。」
「うーん…………。
向こうの世界はさ、特に俺達のいた国は、こっちと比べたらスッゲー平和なんだよ。」
だったら戻るべきでは無いのではないか。
疑問に思うローだったが、以前カナエが
言っていた事を思い出した。
「仲間……強い絆……。」
「そうそう。」
平和がごく当たり前だと思っている者達。
人と深く関わらなくても、一人で生きていける便利な世の中。
他人に触れてしまう事で、自らが傷つく事を恐れている。
表面上は親しくしていても心の中に分厚い壁をつくって、踏み込まれる事を嫌う。
「でもやっぱり寂しいから、お前らの絆に夢見ちゃうんだよね。」
「あいつも同じ事を言っていた……」
寂しいと。
「だが、お前も知ってるんだろ?」
「昔の事か?……知ってるよ。」
目の前で尽きる命を多く見てきた。
人間の薄汚い心、裏切り、絶望も。
生き延びる為に、死体に埋もれた事もあった。
血にまみれた人生だ。
「何を羨む事がある。」
「けどさ、自分を真剣に思ってくれている人がいるっていう拠り所があるだろ。」
血の繋がりなんて無いのに。
それでも、
見返りを求めず思い合う事ができるのは
家族以上の関係があるから。
「俺らには中々無いの。
こっちにいる時の方が、スズキは楽しそうに見えたよ。」
「よく……分かんねェな……。」
平和に慣れた者の気持ちなんて分からない。
たがそれはお互いに言える事。
両極端である、二人の歩んできた道。
(俺は……麦わら屋のような奴じゃねェ。)
あの人の本懐を遂げる為とは言え、
残忍な事を繰り返してきた自分を、
返り血を多く浴びてきた身体に抱かれた事を
カナエは、どう思っていたのだろう。