第33章 サニー号。
『でも……嫌じゃないの?』
「そう?ベルメールさんの思い出が共有できる相手がいるなんてうれしいじゃない!」
『……ありがとう。』
「あとでみかん食べる?食べ頃よ!」
『いただきます!』
気が付けば、他の船員達が穏やかな笑顔を
こちらに向けていた。
今の気持ちを見抜いた彼等の観察眼にも驚きだが、何て気持ちの良い人達なんだろう。
彼らはきっと自分に正直に、
真っ直ぐ前を向いて生きているから、
後ろめたい事なんて何もないから
過去を知られても、頭の中を覗かれても
胸を張って堂々としていられるのだ。
カナエが学生の頃から、ずっと見守ってきた麦わらの一味。
彼らと同じ空間に一緒にいて、自分を見てくれているのが何だか信じられない。
(は……鼻血が……。)
ぶっぴ出そうだ。
これ以上見ていたら、出血多量で天に召されてしまう。
『ロー、腕を貸してください。』
「あァ?」
カナエは目隠しの為に、ローの腕に顔を埋めた。
こうしておけば、ダイニングが血の海になるのは避けられそうだ。
「スズキ、頑張って乗り越えろよ。今が踏ん張りどころだ!」
『はい。』
トミダもこの気持ちを経験済みのようだ。
「おい。」
不意にローに呼ばれて、顔を見上げてみると
何か言いたげな、不満そうな顔で睨んでいる。
以前よりも濃くなった目の下のクマが、彼の雰囲気を一層凶悪にしていた。
『なっ……何!?』
恐い。ヤクザが目の前にいる。
「何じゃねェ。本調子じゃねェんなら、もう少し寝てろ。」
『……うん。』
それで腕を借りたのでは無いのだが。
表情では分かりにくいが、心配してくれているようだ。
「トニー屋。もう一度医療室を使うぞ。」
「いいぞ!ゆっくり休めよ!」
ドレスローザ到着までは時間がある。
ローとカナエが席を立つと、皆もそれぞれ席を離れた。
食事の後片付けをしたり、筋トレや釣りに意気込んだりと自由時間になったようだ。
ナミはログを一度確認しようとテーブルを離れた時、ローに呼び止められた。
「ベルメールってのはお前の何だ。」
「大好きな人よ。今の私があるのはベルメールさんのおかげ。」
「……そうか。」
ローはそう言うと、カナエを連れて
チョッパーの保健室に入った。