第31章 現実
「カナエさーん。おはよーございまーす。」
『おはよー』
「連休どっか行きました?」
『家にいた。』
「相変わらずインドアですね。漫画読んでたんですか?」
『当ったりー』
「もったいないですよ!」
カナエはいつも通り出勤していた。
夢じゃないと確信しても、どうする事もできない。連休中は虚無感に襲われて何も出来なかった。ワンピースも、何だか怖くて読み返せていない。
でも元の世界に戻ったのだから、仕事には行かなければならないと思った。
朝食ブュッフェのスタンバイの為、朝6時に職場であるレストランに行くと、既に後輩のヨシイが来ていた。
『ヨシイ何時に来たの?』
「5時です!色々仕込んでおかないと不安なんで!」
『相変わらず真面目だねー。ヨシイがいて良かったよ。先輩は安心です。』
「カナエさんだけですよぉー!そんな事言ってくれるのぉー!」
ヨシイは見た目がイケイケなので誤解されやすいが、誰よりも真面目で仕事ができる。
カナエの次に勤続年数が長い貴重な女性社員。長いと言っても歳は6つも下だ。
二人で黙々とスタンバイをしていた。
30分もすると、若い社員達とアルバイトが出勤してきた。先に来ている先輩達の姿に焦っている。
「この時間に来てもスタンバイ間に合わないから、次はもうちょっと早く来ようね!」
「はっ!はい!!」
カナエが言うべき台詞を、ヨシイが優しい口調で嫌味たっぷりに言い放った。
皆、真っ青だ。
(あの迫力は羨ましい……。)
その内マネージャーも出勤してきて、もうすぐレストランのオープン時間になった。
ホテルの宿泊率を考慮に入れて、外来の入客数もいつも通りだとすれば、今日の朝食は超多忙。レストランの従業員は全員出勤だ。
気合いを入れなければ。
『…………あ。』
「どうしたんですか?」
『トミダさんは……いる?』
彼は今、どちらの世界にいるのだろう。
一度現実に戻ったが、また行ったはず。
二つの世界の時間の流れは違う。
一度戻った時の彼が今日出勤するのだろうか。でも、すぐにあちらの世界に行っていたら、
今この時の彼の存在は一体どうなるんだ。
もう戻って来なかったら?
行方不明者扱いか。
「………あの」
『ん?』
「誰ですか?それ。」
マジかよ。