第31章 現実
『しっ……死ぬ!!!』
溺れる夢を見てカナエは目を覚ました。
どうやら、うつ伏せで寝ていて、
枕に顔を埋めていた様だ。
眠りが深くて、息が出来ていない事に、
限界になるまで気が付かなかった。
『ん……?夢?』
苦しくなって、ローと一緒に海に落ちたのは夢だったのだろうか。
だが、体を支えてくれた感覚と、海水の冷たさは妙にリアルだった。
『だる……』
気怠い体を何とか起こして、カナエはベッドの上に座った。
頭がくらくらする。
でも、何とか立ち上がる事は出来そうだ。
座ったまま、ゆっくりと足をベットから降ろした。
すると足に何かが当たって、ドサッと音を立てて床に落ちてしまった。
『あ……。』
”ONE PIECE 巻一”
『そっか……。』
あの日は全巻読み返すと心に決めて手に取ったが、連日の過酷な勤務に体が酷く疲れていて、
直ぐに眠ってしまった。
表紙を見ると、ルフィが片手を天に掲げ、希望に満ち溢れた笑顔をこちらに向けている。
信頼する仲間と一緒に船に乗って、何て楽しそうなんだろう。
『あ……テレビ消してなかった……。』
ここは見慣れた自分の部屋だ。
ベッドから見える位置にテレビがある。
通販番組で、真珠のネックレスがイヤリングとセットでこのお値段!と騒いでいた。
『おぉ……破格……。』
しばらくボーッとテレビを見ていた。
通販番組が終わり、ニュースに切り替わった。
だんだん頭が働き始めた。
そういえば今は何時だろうと、スマートフォンを確認した。
時間は午前4時頃で、日にちは仕事から帰った次の日だった。
『え……寝過ぎ……』
帰って、一巻を読み始めたのは昼頃だった。それからずっと眠っていたのだろうか。