第30章 嫌われる事。
程なくして、シャチやジャンバールも甲板へやって来た。トミダに状況を聞いた二人は、引き上げる為のロープを慌てて準備している。
しばらくすると、海から次々と船員達が顔を出し始め、最後にローを抱えたベポが出てきた。
シャチはそれを見てホッと胸を撫で下ろしたが、船員達の顔はまだ険しいまま。
「ペンギン!カナエさんは!?」
「いねェ!!どこにも!!」
「え!?」
「とにかく船長とベポを引き上げろ!俺達はもう一度潜ってみる!」
「待て!その必要はねェ!!」
皆が息を思いっきり吸った時、叫んだのは
トミダだった。
「探しても無駄なんだ……。」
友達じゃないのか、薄情な奴だとトミダは船員達から非難を浴びている。
だが、説明するからと言う彼の神妙な面持ちと、ローのあいつの話を聞く、と言う言葉で船員達は船に戻る事にした。
「キャプテンらしくないよ……あの位で振り落とされるなんて……」
いつものローならば、カナエを抱えていたとしても海に落ちる様な事は無い。
いつもと様子が違う。
激しく息を切らし、ぐったりしている。一体何があったのだろうか。
「船長……カナエは……」
ペンギンが心配そうに聞いた。
ローはゆっくり呼吸を整え、語り始めた。
認めたくは無い。
だがあれは、目の前で起こった紛れもない事実だ。
「……船が着水した時、海に落ちた時みてェ
に全身の力が抜けた……。」
何故だか分からない。
柵を掴んでいた手と、カナエを抱き締めていた手が言う事を聞かなくなった。
海の中へ放り投げられた二人は、もちろん動く事ができない。
ローはどうする事もできず沈んで行く中、
カナエを何とか視界に捉えていた。
手を伸ばして引き寄せたくても
それが出来ない。
目の前に守りたい人がいるのに
体が動かない。
すると突然、二人の辺りだけ潮の流れが変わった。
水流はカナエを捉えると、急にスピードを増して、海底へと彼女を連れ去って行く。
ローは、助けに飛び込んでいたベポの元まで流された。
また、いなくなるのか。
大好きなあの人が脳裏に浮かんだ。
もう、大事なものは手離したくないのに。
ローは薄れ行く意識の中で、
後悔の念に苛まれていた。