第23章 知らない。
「ダイスケ、もう良いのか?」
「あぁ。待たせた。」
全員の手当てが終わり甲板が綺麗になった頃
ダイスケの準備が整った。
いつまでも敵船でゆっくりしている訳にはいかない。早々に引き揚げるつもりの様だ。
『待って!』
カナエはキッドに駆け寄った。
ポーラータング号に帰って来れたのはキッドが指示したおかげ。
帰る前にちゃんと言っておかないと。
『………ありがとうございました。』
「お前に死なれちゃ、つまんねェからな。」
『わっ!!』
キッドはカナエを抱き上げた。離れようと暴れるが効果は無い。
「トラファルガーは居ねェし、このまま連れて帰るか。血の力も目覚めたみてェだしな。」
『えぇ!?やめて!誘拐犯!!』
「カナエを離せ!!」
「やめろ!!」
「姐さんを返せー!!」
「雑魚は黙ってろ!消すぞ!!」
キッドが叫ぶとその迫力に圧倒され
シャチやその他大勢の船員はペンギンの後ろに隠れてしまった。
「冗談だよ。本気にすんな。」
『そ……そうなの?』
本当に攫って行きそうな顔をしていたので信じてしまった。
だが、カナエを抱く腕を離す素振りは無い。
『あの……』
「今連れて行ったところで、俺のものには
なりそうに無ェしな………」
『血の力が欲しいんじゃないの?』
「いらねェ。そんなの無くても俺は強い。欲しいのは……」
先程カナエが取り乱していた様子は、ローが彼女にとってどれ程の存在なのか物語っていた。
無理矢理船に乗せても、自分を見てくれる事は無いだろう。それでは面白く無い。
「トラファルガーの野郎に飽きたら俺の所に来いよ。」
『え………やだ………』
「てめェ………」
「「「あ!!!」」」
キッドは不意に顔を近づけカナエに唇を重ねた。
あの時とは違って優しく触れて来た事に驚いて、カナエは動けないでいる。
「じゃあな……………新世界で会おうぜ。」
唇を離したキッドはカナエをそっと降ろし、呟くように言った。少し寂しそうにも見える。
『キッド……それを私に言ってはいけない……』
「何だよそれ……」
そう言い残し、キッド達は消えた。
甲板に静けさが戻る。
「船長が居なくて良かった……」
「今の事……黙ってろよ。」
ペンギンやシャチ達は固く決意した。