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いつか、どこかの本丸で【刀剣乱舞】

第2章 幸せな微睡み(歌仙兼定)※




「……泥より出て泥に染まらぬ清廉で高貴な花。開いたと思っても直ぐまた閉じてしまう。まさに主は蓮の花だ」

自分の事を花に喩えられても、なんだか釈然としない。
私の想像力が不足しているのだろうか。

「ねぇ歌仙…する時くらいはそういう詩的な表現、やめてくれる?」

「おや、主はこの雅がわからないと言うのかい?」

悪戯っぽく笑う声と、腰紐を解く衣擦れの音が静かに響く。

「だって何言いたいのか全然わかんないから、モヤモヤするんだもん」


しばらく黙った後「敢えて濁しておきたい、そういう思いもあるんだけどね」と、ぽつり零した歌仙は、暗がりのせいかとても物憂げに見えた気がした。


「では言い直そう」

歌仙の華奢な指がが頬に触れ、微かな明かりでぼやける輪郭を確かめる様になぞる。頬から顎へ、顎から首へ、首から肩へ。

その指は左胸の、心臓の辺りで止まった。

「僕はね、主が何を考えているのか分からない。こうやって直に触れている今でも、主の心は固く閉ざされている気がして……不安になるんだ」

いつも落ち着き払っている歌仙が、苦しそうな顔でそう言った。


「そう、かな…」

「僕は主の心に触れたい」

ゆっくりと深い、口付けが降る。

そんなのまるで、愛しい恋人にするみたいじゃないか。
キスの後、離れていく距離が悔しくてその袖をぎゅっと掴む。


「私も…私も歌仙が分からない。何度こういう事しても、夜が明けたらまるで何も無かったみたいに接するから。だから義務感とか忠誠心でそういう事してるのかなって思って……」

ここからは、とても目を見て言えない。

「…歌仙のことが、好きだよ。好き過ぎて苦し、い」

言葉の途中でふわりと抱き寄せられた。歌仙の香りと体温に包まれる。


「まったく、雅を解さぬ主には困ったものだ。僕が逢瀬の度あんなに愛を伝えていたのに、何一つ響いていなかったんだね」

「え、何それ!」

やれやれといった風に呆れる歌仙。

「好きでも無い人を、美しい花に喩えるなんて僕はしないよ」

思い返せば歌仙は毎回のように、何かしら花の話をしてた気がする。

「ずるい!ちゃんと言ってくれれば、私こんなに思い悩むことも無かったのに」

「審神者である貴方に想いを伝えるなんて、そう簡単にして良い事じゃないからね。でもそんなに僕の事で悩んでくれたのは嬉しいよ」


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