第1章 契り(加州清光)
よく晴れた昼下がり。ぽかぽかと日当たりの良い縁側で、本来仕えるべき主に爪の紅を塗り直して貰ってるという主従逆転の状態なのに、加州清光はどこか不満げだった。
「なぁ……主」
「んー、どうかした?」
顔を上げることなく最後の小指をゆっくりと縁取りながら、はどこか気の抜けた返事をする。
「あのさ、出陣……しないの?」
「えー、なんでそんな事を言うんだよぉ清光くーん。ほら、せっかく綺麗に紅が塗れたのに、勿体無いじゃないか!」
ぼそり、ぼそりと押し出すように言葉を紡いだ俺をからかって笑う主。
なんか、モヤモヤする。
主の仕事に自分が口を挟むべきでは無い。そんなの分かってるけど…。幕末の函館で敗れたあの日から、主は出陣どころか演練も新しい刀の鍛刀も。審神者の仕事の一切を放り出して過ごしている。
俺だって人の事言えるほど真面目じゃ無いけど、流石に三日もサボるのはマズい気がする。
「…歴史修正主義者なんて、野放しにして良いと思ってんの?」
「別にそういう訳じゃないよ。……清光、この話はこれでお終いにしよう」
またもひらりと躱される。まるで暖簾に腕押し、糠に釘。
「天気もいいしどこか散歩でも……清光?」
それでも立ち上がった主の手を、俺は掴んで引き止める。