第8章 【番外編】黒猫と三毛猫。
side莉奈。
「なにー?声小さくて聞こえねえなー。」
この人、わかってやってる…
だって顔が胡散臭い。
でも、お世話になったのは確かだし…
私は仕方なしに頭をさげる。
「ありがとーございましたー。」
「棒読みのありがとういただきましたー。」
そう言ってセンパイは私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
心地よい。
素を出してるからだろうか。
センパイの醸し出す空気がなぜか過ごしやすい。
私は撫でられた手を掴むと、そのまま頬にその手を添えた。
会って間もない男の人の手って、普通だったら嫌な気持ちにならない?
だけど、この人ならなんとなく大丈夫。
そう思えたの。
「センパイ、私振られたの。」
「そうだな。」
「失恋した時って新しい恋が必要だと思うんです。」
そう、私が言えばセンパイはニヤリと笑う。
「んなまわりくどい言い方しねーでストレートに言えよ。
俺が欲しいって。」
見つめられる瞳。
吸い寄せられるみたいに目が離せない。
「わ…たし。」
「ん?」
ずるい。
さっきまでただのセンパイだと思っていたのに、そんな熱っぽい瞳で見つめられたら…
意識しちゃう…
赤くなった顔を誤魔化すように、私はセンパイの胸に飛び込む。
ふわりと香った香水の甘い匂いに、心が酔ってしまったみたい。
「センパイのカノジョに…なってあげてもいーですよ…?」
「ほんっと素直じゃねーな。」
そう言うと、センパイは私をぎゅーっと抱きしめ笑った。
でも、センパイだって素直じゃない。
手、震えてる。
「ほら、莉奈。顔上げろ。」
名前…初めて呼ばれた。
顔を上げれば髪の隙間から瞳が覗く。
かっこいい。
最悪なところばっかり見られてるけれど…
それでも、それでも…
「好き…かもです…」
「じゃあ、”かも”から”好き”に変えてやる。本気にさせてやるよ。」
きっとわたし、もうなってる。
でも、言ってあげない。
センパイが素直になってくれるまで私、待ってる。
センパイのものになるんじゃなくてセンパイが私のものになってくれるんでしょう?
だから、まってるね。