第28章 ねんまつねんし、再。〜第三体育館組、集合〜
室内に戻り沸いたお湯でコーヒーとココアを作る。甘く作ったココアを差し出せば、蛍はそれを手に取り何度か冷ますように息を吹きかけ一口飲んだ。
『進路、具体的に何に悩んでるの。』
先に問い掛ければ蛍は肩をこわばらせる。そして言いづらそうにしながらもゆっくり唇を開いた。
「学校の目星はついたんです。在学中に取りたい資格があるんでそれが取れる場所が良くて。」
ここなんですけど、そう言って見せてきた端末の画面にはご近所の大学の名前。
『…蛍?』
「………だから、美優さんに相談したいなって…他の人に言ったら揶揄われるから。」
端末を私から奪いながら口元を押さえる蛍。指の隙間から見える素肌は恥ずかしそうに赤に染まっている。
「……母も気づいたみたいで、この家の近くに家借りるつもりらしくて…」
蛍のお母さんには何かあった時のために住所教えてるからね…
初めての一人暮らしになるから知り合いがいた方が安心だっていう蛍のお母さんの気持ちもわかる。
『いいんじゃない?何かあった時に近くにいたらすぐ駆けつけられるし。』
「それはありがたいんですが、灰羽は?あんまりいい気しないんじゃ…」
『………わかんない。』
そう告げた表情に疑問を持ったのだろう。首を傾げた蛍は私の顔を覗く。
「灰羽から進路の相談とか…」
『されたことない。』
ふうと息を吐けば蛍は何か言いたげな顔。動き始めそうなその唇に何も言わせないように私も言葉を紡いでいく。
『私も待ってるんだよ。でも、具体的な夢とかどの学校行きたいとかはないかな。まだ相談したいって思える段階じゃないのかもしれない。もしかしたら私が頼りないからかもしれない。……現段階では私に進路について話をするつもりはないみたい。』
「そう、ですか…」
『ん、この話はおしまい。7時くらいまでにはご飯作っちゃうからリエーフ起こしていろいろ準備して?今日は朝から買い物行く予定だからいろいろ手伝ってもらわなきゃならないし。』
わざとらしくキッチンを出るように促すと、蛍は察したように部屋へと向かった。
もうすぐリエーフは3年生。
将来やりたいことも考えているはずなのに、私には教えてくれない。
そんなに頼りないかな。
吐いたため息を冷えてしまったコーヒーで飲み込むと、そのまま朝食を作り始めた。