第28章 ねんまつねんし、再。〜第三体育館組、集合〜
side 灰羽
『おふろ、つぎいいよ。』
廊下から響いてきた足音の時点で違和感は感じていたがこれは重症。本人が気にしている髪の毛のケアさえもできないままリビングに戻ってくるということは眠気の限界のようだ。
ツッキーが目線でなんとかしなよと訴えながら風呂に行くのを見送ると、かろうじて目を開いている美優さんをソファーに座らせる。背もたれに体をよりかからせると、ドライヤーとケア用品を持ってきて髪を乾かし始めれば、小さな声の謝罪が聞こえた後に寝息が聞こえ始めた。
はしゃいでたもんなぁ。
ヘアミルクを丁寧に塗り込み荒くドライヤーをかける。ある程度乾いたらヘアオイルを毛先に揉み込みながらブラシを使い丁寧に乾かしていく。ここを丁寧にやらないと髪の毛のまとまりが悪くなってしまうらしい。
美優さんの長い髪が好きだ。
癖があってふわふわな髪の毛が好き。
コンプレックスだというこの髪を自由に触らせてくれるのが嬉しい。
ドライヤーを止め乾いた髪の毛に鼻を埋めればシャンプーの香りがふわりと香る。はちみつのような甘い香りのそれは、ボトルさえも可愛いからと美優さんのお気に入り。
「灰羽。」
ふわふわの髪から顔を上げるとリビングにひょっこり顔を出すツッキーと目があった。
「ドライヤー貸して、あと顔緩みすぎ。」
ドライヤーを差し出しながら口元を手のひらで覆う。油断しきった顔が可愛いんだからしょうがないじゃん。
ため息を吐きながら風呂に戻っていくツッキーから目を離すとすやすやと寝息を立てる美優さんの髪を柔く撫でる。このまま寝かせてあげたいけれど、流石にソファじゃ体を痛めてしまう。
「美優さん、部屋行こう?」
肩を叩き意識を浮上させようとするが、開かれた瞳はやはり眠気を含んでいる。このまま抱えていこうか、そう思いながら再び美優さんに視線を戻せば、眠そうな視線と腕がこちらに伸びた。
『連れてって?』
はい可愛い。
眠くて呂律が回りにくくて舌足らずな感じも可愛い。
ノックアウトされ、にやけた口元を手のひらで覆う。
ツッキーまだドライヤー終わってないよね?
きょろきょろと周りを見渡しふにゃりと笑みを溢す唇に触れるだけのキスを落とすと、腕の中に体を収めながら抱き上げ、部屋へと向かう。
腕の中で柔らかな笑みを浮かべながら俺の服を掴む姿が可愛らしすぎて、おやすみのキスを送ったのだった。