第27章 2回目の誕生日
みんなが汗を拭きクールダウンをする中、ひとり私に近づく姿。
『研磨お疲れ様。』
「美優、試合見てた?負けちゃったリエーフよりおれと一緒にご飯行こうよ。」
リエーフの隙をつき私に近づく研磨は、いつの間にか私の手を取り指を絡め、瞳を覗き込む。
『研磨だめ。せっかく研磨にアップルパイ焼いてきたのに…持ち帰っていいの?』
ほら、とカバンから出したのは使い捨ての保冷バッグ。
今回は専門学校の後だったからホールは流石に難しくて、手のひらに乗るサイズの小さなパイ。朝焼いてきたからまだサクサクだと思うけれど、時間経っちゃったからなぁ。
思ったことが口から出てしまったのだろう。研磨は保冷バッグの中のケーキ用の箱を取り出すと封を開け覗き込む。
「ちっちゃい。可愛い。」
『でしょ。大きいのカットするのも考えたけど、こっちの方が食べやすいし可愛いし?』
「研磨さんいいなぁ。美優さん俺のは?」
「美優さん私のは?」
汗を拭きながら戻ってくるリエーフとスコア付けのまとめが終わった莉奈ちゃんが研磨の持っている箱の中を覗く。2人とも私が甘やかしたおかげでおねだりが上手だ。
「リエーフはうちに別なのがあるからダメ。莉奈ちゃんは今度遊びに来た時ね。ほら、直井監督呼んでる。」
他のメンバーが整列に向かっているのを見て3人に伝えれば、リエーフと莉奈ちゃんはまた後でと先に走る。研磨は煩わしそうにゆっくりとそちらに向かおうとするが一度足を止めてこちらを振り向いた。
「美優、ありがとうね。」
『んーん、誕生日遅れてごめんね?』
「美優にアップルパイもらえただけで満足。大事に食べるね。」
研磨は目を細めると、ケーキの入った箱に柔く口付けをしながら私に目線を送る。そして目線を外すとゆっくりみんなの元に向かっていった。