第26章 音駒がくえんさいっ!
「ちょっと球彦、俺美優さん来たら教えてって言ったじゃん。」
カツカツとヒールを鳴らし、椅子に背中を預けながらクロと話をする球彦に詰め寄るリエーフ。美人さんから出るリエーフの声に球彦の隣のクロは驚き、のち吹き出す。
「おまっ、リエーフか!すげえな!」
「黒尾さんじゃないっすか。久しぶり…ってほどじゃないっすね。」
「だって言わないほうが面白そうだったし…」
「あれだな、お前姉ちゃんに似てるな。」
3人でどんどん続いていく会話。
先ほどのように作られたリエーフの表情は美人だと思った。でも、クロと球彦と話しながら表情が変わる姿はクロが言った通りでアリサさんにもよく似ている。
会話を聴きながら表情を盗み見ていれば急に目が合う。いつもと違う色でいつもと同じ眼差しが私を見る。
「惚れた?」
いつもと違う赤の唇が弧を描く。
同意するように頷けば、いつもより強い目元が柔らかく笑む。多分頬が染まったのだろう。リエーフの後ろにいるクロの笑顔が生暖かい。
「お前な…」
『しょうがないじゃない…これは反則…』
「これだったら美優さんと一緒に可愛い服屋入っても大丈夫っすかね?」
笑顔で首を傾げるリエーフは確かに可愛い。
でも……
「デカすぎ。」
『おっきい。』
「タッパ考えろよ。」
可愛いし、学祭内ならギリいけるが、2メートル近い身長や、明らかに広い肩幅、骨ばった手指。どう考えても女装男子である。
本人は不服そうだが、しょうがない。
『ってリエーフ、戻らなくて平気なの?リエーフの代わりに入れる人っていないんじゃない?』
ふとした疑問が浮かぶと首を傾げる。
多分昨日の宣伝のおかげでリエーフ目当てのお客様は多いだろう。こんなところで油を売っていていいのか…
その疑問を聞いた球彦はわざとらしいため息を吐くと、受付用の机から何かを取り出す。そして何かを書き加えたかと思ったら、それを視聴覚室の扉に貼り付けた。
「現在八尺様校内散策中のため不在…ってただの休憩じゃねえか。」
「そうですね。灰羽、衣装汚さないようにして宣伝しながら休憩。クラスで決めた30分な。時間厳守。」
「おう!じゃあ30分デートしてくる!行こ、美優さん!」
いつの間に決まってしまった校内デート。一目散に走り出すリエーフはやっぱりいつものリエーフで、思わず笑いながら手を伸ばすリエーフの側へと走り出した。
