第26章 音駒がくえんさいっ!
足を踏み入れれば、ヒヤリとする室内。冷房が効いているのか逆に肌寒い。
立ち止まり目を慣らしながらゆっくり進めば、たまに出てくるお化け。
トイレを模したロッカーから出てくる花子さん。
犬のぬいぐるみにお面がついた人面犬。
赤コートにマスク、黒髪ロングの女の人が聞いてくる「私綺麗?」と聞く口裂け女。
出てくるお化けに、何度もびくびくと反応をしながら進んでいけば少しだけ広く取られたスペース。
青い照明に照らされたその場所に、後ろを向いたつばの大きな帽子を被った腰までの黒髪、白いワンピース、赤いパンプスの女の人がいる。
しかし、明らかに身長は大きい。
ゆっくり振り返ったその人が目深く被られた帽子の隙間から見える赤い口元を笑みに変えた。
瞬間、その唇が驚きの形になると、私の名前を読んだ。
「っ!美優さんっ!」
やっぱり。
目の前にいる八尺様を模した美人は、リエーフだった。
少しだけ離れた場所にいたリエーフはすぐに私の元へと近づいてくる。
「うそ。俺、球彦に美優さんきたら教えてって言ったのに…」
『球彦、普通に入れてくれたけど。』
チームメイトに裏切られたとわかり悔しそうな顔。
でもそんな顔をするリエーフはとっても美人。
男らしい肩幅や体を隠すためのレースを重ねた長袖の白のトップスと足元を隠す白のスカート。
身長の大きなリエーフをさらに大きく見せていたのは赤いヒールのパンプス。
そして、お母さん譲りのはっきりとした顔立ちは綺麗にメイクを施され迫力のある美人になっている。
元々の切れ長の瞳はマスカラとアイラインを施され、さらにいつもの瞳とはちがう黒色のカラコンを入れているから、被っている黒のロングウィッグとマッチしている。
そして、青みがかった照明に照らされる透けるような白い肌は天然。
…これはみんながリエーフの話をするとニヤニヤするわけだ。
リエーフも私にバレてしまったから仕方がない、と腹を括ったようで、なぜか私と一緒に出口から廊下に出た。