第26章 音駒がくえんさいっ!
「唐揚げ…揚げたてです。」
紙コップに仕分けた唐揚げを深めのトレーに並べ、女の子が入ってくる。その浴衣はよくよく見れば私が莉奈ちゃんに渡したもの。
莉奈ちゃんから聞いた料理上手な子に浴衣が回っていったのか、と席を立ち上がると、空のトレーを回収するその子に話しかけた。
優しく肩を叩けばびくりと跳ねる細い肩。綺麗に肩で切り揃えられた髪の毛を揺らしこちらを見る彼女は不安げにこちらを見る。
「あ、あの…」
『唐揚げ、美味しかったから感想言いにきたの。あと浴衣、似合ってる。いっぱい着てあげてほしいな?』
「あ…もしかして浴衣の?ありがとうございます。」
すぐに状況の把握をしたようだ。浴衣のお礼か、深々と頭を下げられる。気にしなくていいと言っても頭はなかなか上がってこない。
『あまり着てないものだし貰ってくれた方が助かるから。』
「おい、何後輩虐めしてるんだよ。」
いつのまに背後に立ったのだろう。懐かしい声に肩が跳ねる。
振り返れば、可愛らしい色のTシャツと黒のジャージ、いつもの無精髭の元担任。
「お、正嗣センセ久しぶり」
いつのまにか私たちの方へ近寄ってくるクロに相変わらずの頭だなと軽口を叩く先生。観察する様に見つめていれば、やる気なさげな瞳がこちらに向いた。
「美優、久しぶりだな。」
柔く上がる口角に思わず顔を背けるが、マサちゃんはそれを許してくれない。
「ほら、卒業したら何て呼ぶんだっけ?美優。」
わかっている…けれど、クロと莉奈ちゃんのニヤニヤ顔が突き刺さり、そちらを見られない。
『マサちゃ…』
「違うだろ、やり直し。」
『まさ、つぐさん…』
「ん、よし」
名前を呼ばれて満足したのか、セットした髪の毛を崩さない様に大きな手が優しく頭を撫でていく。赤面した頬を隠すために両手で口元を覆うが、きっと意味がないんだろうな…
「へぇー、マサちゃんセンセーの本命って美優さんなんですね?あーあ、マサちゃんセンセー不毛な恋してるー。」
「正嗣センセー、流石に諦めた方がいいっすよ。こいつらに割り込みは無理無理。」
「無謀を崩していくのも面白いだろうが。まあ、名前呼ぶだけでこんな風になる姿だけで満足だけどな。」
ふふん顔のマサちゃんをからかう2人に思わずため息を吐く。