第21章 今年も夏休みは終わらないっ! 〜旅行3日目〜
「足りない…」
しゅん、とした顔でリエーフが私に呟いた。
リエーフさん、熱海駅で私の残したデニッシュを、ここでは全種類のフレンチトーストをもらって食べたのに足りないと来ましたか。
『家帰ったらパンもあるんだから我慢、ね?』
先行ってるぞー。
クロたちが先に行く中、私はとぼとぼと歩くリエーフをぐいぐい引っ張って行く。
「じゃあ飲み物…」
『はいはい。』
リエーフに先に自動販売機の方へ行かせて、私は前を歩くクロたちに事情を話した後、リエーフの後を追った。
案の定…というかなんというか、リエーフは自動販売機までたどり着けていなかった。
いろんなお店の美味しそうな香りに引き寄せられあっちへふらふら、こっちへふらふら。
そんなリエーフに女の子もふらふら引き寄せられる。
「ねえ、お腹空いてるの?かーわいー!」
明らかに私より年上のお姉さん数人に声をかけられたリエーフは不思議そうにこてんと首をかしげる。
「腹は減ってるけど…『リエーフ!』
わざとらしく名前を呼んで近づいて行くと、お姉さんたちはにこり、笑う。
「あら、彼女いたんだ。ざーんねん。」
笑みを見せるグロスの口元に、キラキラぱっちり二重まぶた。
レースのトップスにひらひら紺色ロングスカート。
肩出しブラウスにデニムのショートパンツ。
ふわり夏色ワンピース。
しゃらりとピアスを鳴らす彼女らに強い視線を送れば、少しだけびっくりしたような顔のおねえさんたちの姿。
「ごめんね?俺、この人のものだから。」
唐突に隣から声が降ってきたと同時、ぐいと頭がリエーフを向いた。
気付いた時には目の前にリエーフの顔。
ちゅっ、というリップ音とともに周囲からのどよめきが起こりリエーフがにっこりした。