第11章 獅子のいない1週間。寂しすぎて…&すれ違い編
「椎名さんあんまり歌ってないじゃん。」
そう声をかけてきたのは教室の中で席の近い佐保(さほ)くん。
イケメンらしいけど私にはよくわからない。
『私、あんまり音楽とか聞かないから…』
「じゃあつまらなくない?一緒に抜け出そうよ。」
チャンスのような、ピンチのような…
抜け出せるならありがたい。
でも抜け出した後が問題だよね…
絶対に「2人で…」とか言い出すだろうしな…
いろいろ考えてるのは照れてるからだと思ったのか、ソファに置いていた手を握った佐保くんは私に体を近づけてきた。
「俺さ、椎名さんずっと可愛いなって思ってて。
だから今日カラオケ来てくれたの嬉しくてさ。」
耳元で吐息に乗せて喋られるけれどちっともドキドキしない。
っていうか香水くさい。
「だからさ、2人きりで話したいなって思ってさ。」
さりげなく握った手を指に絡めてくるのがまた…なんというか…わざとらしいというか…
そんなときに聞こえた、新しく入った曲。
『これ…』
「椎名さんこれ好きなの?」
『うん、すき。』
リエーフが口ずさんでた曲。
今流行りらしい恋の歌。
「ただお腹を空かせて 貴女のもとへ帰るんだ…って俺みたいですよね?
部活終わった後、腹減ったなー、美優さんのご飯なにかなーっていっつも考えてますもん。」
その言葉が忘れられなくて。
それでちゃんと聞いてみたら、本当に私とリエーフの曲にしか聞こえなくなって…
ぽそり、歌の歌詞を口ずさんだ。
そう。
私も恋をしたの。
貴方の…リエーフの
小さな仕草、ふわり、香る香りに。
『ふたりを超えてゆけ…』
やっぱり私帰らなきゃ。
私はカバンを持つと邪魔をしないようにとそっと立ち上がった。