第10章 獅子のいない1週間。ナイショのデート編
待ち合わせの時間10分前。
私は最寄駅の前にいた。
服装は待ち合わせの相手に「落ち着いた感じ」との指定をいただいたので、今日はシフォン地のクリーム色のタンクトップにネイビーのワイドパンツ。
薄手のペールイエローのカーディガンを肩にかけて冷房対策。
カバンはいつもの皮のショルダーに財布とスマホ、あとはメイク道具に日焼け止め。
今日は暑いからハンドタオルと…
あとは、水出しコーヒーとビターチョコのマフィン。
この組み合わせ、好きだったもんね。
そんな思いを巡らせていると、目の前で車が止まる。
日産、エクス○レイルの黒。
助手席の窓が開いたかと思ったら中から名前が呼ばれた。
「美優、乗れよ。」
『迎えに来てくれてありがとう。
マサちゃん。』
私は助手席の扉を開けると座り心地の良いシートに座り込む。
「じゃあいくぞー。」
扉を閉め、シートベルトを締めれば隣から聞こえる声。
香るのはタバコとバニラの混じる大人の香り。
ちらり、服装を盗み見れば、Vネックの白いTシャツにネイビーのチノパンデニムシャツを腕まくりしてる。
さりげなく一粒石のシンプルなピアスがついてたりと、なかなかにオシャレ。
そして、何が一番違うかっていうと…
担任の時はやる気なさげな顔で無精髭、適当な髪の毛。
やる気なしでも格好良く見えたのに…
今日はヒゲはきれいに剃ってる!
髪の毛も適当じゃない!ワックスできれいに整えられてる。
マサちゃんいつもと違いすぎるよ!
気合い入りすぎだよ‼︎
ふいっと目線を外せばくすり、笑い声。
「”観察”は終わったかー。」
マサちゃんのこと見てたのばれてる…
『見てない…』
そう言いながら下を向くと隣から私の頭をぽんぽん撫でるマサちゃん。
頭にのせられた手のひらが変わらない。
あったかくて、優しい手。
私が恋だと勘違いしそうになった手。