第1章 ギャンブル
撮影でトラブルがあってモデルが高熱を出して倒れた。スタッフが社長に連絡したらすぐに代わりをよこすと言って来たのが夏音だった。
ほぼ半裸の姿で前室に現れた時は発狂しそうになった。
夏音の裸を見るのは俺だけでいい。
他の誰にも見せたくないのに…
この独占欲の意味がやっと分ったのは最近で、すでに事態は遅すぎた。
今更、愛してると言えるだろうか。
だから、一人、嫉妬に身を焦がすしかない。
これも全部、社長の嫌がらせだろう。
最近は夏音を俺が独占状態にしてるから。
報復とでもいうべきか。
やっとスンリの撮影が終わった。あいつ、抱きつきすぎだ。あとでどうなるかみてろよ。
次はタップヒョンだった。
ヒョンは慣れているから扱いが上手い。本当の恋人のような雰囲気を出されて腹の虫が暴れだした。
カメラマンの指示で夏音が少し横を向く。それをヒョンが同じように横を向いて唇が触れそうなくらいに近づく。
やめてくれ…
見たくない…
俺は耐え切れず、前室を出た。
『誰に誰をかさねてるって?』
本当は知っていた。夏音がヒョンを意識してるって…
意識的に避けるような態度だったから気になっていた。
だから、あの会話でなんとなく分ったんだ。あの日本の俳優はタップヒョンに似てるんだって。だからあんなに自然な二人に見えるんだ。夏音はヒョンの波長に慣れてるから…意識しなくとも演技しなくとも恋人になれる。
撮影を見てそれを思い知らされ、胸が潰されそうに痛んだ。
俺はまだ、舞台に上がれてはいない。
この先もずっと上がることなんかできないだろう。
タップヒョンはそんな俺なんか飛び越えて、舞台にすでに上がっている。
俺が、一人、胸を焦がしているうちに夏音の手をとって台詞を言える役になっている。
俺はそれを下から眺めているだけ、夏音は俺に見向きもしない。
ただ舞台は進んでいく。
社長はそれを思い知らせたかったのか?
お前も、俺と同じ、どんなに足掻いても、もがいても、夏音は振り向かない。
社長と同じ道を選んだから…
先に心を見せなかったから…