第1章 魔界
「とりあえず、今日は休め。人間界から渡ってきたんだ。身体的にも疲れているはずだ。部屋に案内させよう」
確かに、私の体力は限界を迎えていた。でも、そんなことを忘れてしまうかのような、今のこの現状に目眩がした。
「おい、さやかを案内しろ」
すると、閉まりっぱなしだった扉から1人中へ入ってきた。私をここに連れてきたような鎧を着た兵士のような人ではなく、よくドラマなどであるような執事のような服を着たショートカットの少女だった。金の糸のように輝く艶やかな髪に、淡いライトブルーの瞳。とても、愛らしい顔だ。
「私、男です」
「え………?」
澄み切ったその声で紡いだ言葉が衝撃的すぎて、私の思考がついていかなかった。
そのまま本日何度目かのフリーズをしていると、近くでその様子を見ていた『魔王』が声を上げて笑いだした。
「くく………くはっ、ははははっ!」
「な、なに……」
少し………いや、かなりドン引きしながら、そう尋ねると、腹を抱えながらも説明をしてくれた。
「そいつはミアーシェ。正真正銘男だ。詳しいことは明日話そう。とにかく、今日はもう休め」
ミアーシェが、こちらです、と扉を押さえてくれる。でも私は、この王室を出る前に、『魔王』にひとつ問いかけた。
「あんたの名前は?」
突然の問いに彼は少し驚いた様に目を見開き、そしてふっと微笑んだ。
「俺の名は、ルシファムだ。また明日な、さやか」
「………うん、また明日」
今日は少し疲れすぎた。
ミアーシェに案内されるがまま、ふらふらと用意してくれた客室に向かった。
**********
用意してくれた客室は、もうすっ…………ごーく!広かった。広すぎて落ちつかない。
天蓋つきのベッドに、きらびやかな装飾が施されたドレッサーと、それとお揃いのテーブルと椅子。
落ちつかないっ!
「そんなこと言わず、慣れてください。そして、ここは貴女の自室となる部屋です。好きな様に変えていただいても構いません」
「え……?」
声に出したつもりはなかったのだけど、うっかり漏れてしまったようだ。
「私は貴女様の身の回りのお世話をさせて頂きます、ミアーシェと申します。お好きな様にお呼びくださいませ」
ついに私の専属の執事さんまでついちゃった………。