第1章 魔界
「おう……じょ………?」
淡々とそう告げた彼を私は唖然と見つめた。だって、そんなの理解できるわけがない。理解したくもない。
「あんたはこの魔界の王女は私だ、と言いたいの?………意味が分からない!なに、このドッキリ!テレビの前の皆様は楽しいかもしれないけど、私はこれ……………っぽっちも楽しくなんかないっ!早く帰りたいんだけど!」
運営者に少し悪いかな、とは思ったけど、こんなことを仕掛ける奴が悪い。謝るもんか。日本中から非難されようが、別にいい。なら、あんた達がこんなドッキリ掛けられてみなよ、って話!
もう帰るっ!
と勢いよく踵を返し、扉へと真っ直ぐに進む。
「いい?こんな悪趣味なドッキリ、もうやめた方がいい!あんたの為だからね!」
そう言って、かっこよく(?)キメ、扉を押す。
「それじゃあ………ね…………って、え………えっ?」
扉が……開かない。
鍵でも締められているのか、扉に目をやるけど、鍵穴さえも見つからない。
「どういう………こと?」
どれだけ扉を押しても、叩いても、引いてみても、ぴくりとも動かない。
「やめとけ、無駄だ」
「っ………!」
いつの間に私の背後に近づいたのやら、彼が私の耳元でそう囁いた。その、どこか魅惑的な声に背中がぞわりと寒気立つ。
世の女性は、この彼の行動に、頬を赤く染めてトキメクに違いない。だが、私は違う。私を女性だと思わない方がいいだろう。
「離して!私は帰るからっ!」
でも、彼は私の言う通りにするどころか、逆に肩をがしっと掴んで、自分の方へと私を180度回転させた。
「なにす────」
「見ろ」
私の言葉を遮り、窓に指さす。
そのまま言われた通りにそちらを見る。そして私は、その光景に驚きすぎて固まってしまった。
だって、真っ暗な闇に包まれた空には一切の光はなく、そんな空には本で見るようなドラゴンが浮遊しているのだ。どうやったら、驚かずにいられるだろう。
空は真っ暗で光はひとつもない。でも、そこに浮遊しているドラゴンはしっかりと姿形を認めることが出来る。とても、幻想的だ。
「な?これで分かっただろ?ここは魔界だ」
自信満々にそう言った彼に反論しようと口を開くが、肺いっぱいに吸い込んだ行く宛のない空気が吐き出されるだけだった。