第5章 変化
「こんな……治癒の力なんてなんの使い物にもならない。それに、かっこ悪いじゃん?兄さんは炎の力なんて強いの持ってるのに……」
本当にそうだろうか。
本当に使い物にならない?かっこ悪い?
強いのが全てではない。
ああ確か、リアムも自分の兄であるルシファムに対してコンプレックスを抱いていた。どうして兄弟を自分と比べてしまうのだろう。いや、兄弟だからなのかもしれない。
「なんの役にも立たないって、本当にそう思う?」
「もちろん。戦闘向きではないしね」
戦闘………。嫌な響き。
私は自分の手をじっと見つめた。
「………んっ!」
「え………」
隣でサーシャの気の抜けた声が聞こえた。そりゃそうだ。隣の人がいきなり手を噛んだのだから。
「痛ぅっ………」
もう少し手加減すればよかった。
思いっきり噛みすぎたせいでくっきりと歯形が残り、血が出てきた。
「っ、何してんの!?ちょ、ちょっと待ってて!」
サーシャが歯型の残る私の手に自分の手をそっと重ねる。すると、淡い緑の光がサーシャの手から放出される。それと同時に、私の手の痛みもすうっと消えていった。
「ふう………これでだいじょーぶ。っていうか、どうして急に噛んだりしたの」
少し怒ったような口調で咎められる。
「あんたの力が役に立たないってことを教えようと思って」
「え?」
どうしてそんなにも他人と自分を比べたがるのか。
「ゼラが魔力強いとか………別にどうでもいいじゃない。自分が劣っている所だけを見て落ち込むってどんだけネガティブなの。大体、人と自分を比べれば絶対にどこか劣っている所があるに決まってる。人と比べて劣っている所があるからこそ、私たちはそれをカバーし合うように群れてるの。仲間があるの。これは人間だけじゃない。魔族も動物も、なんでもそう。生きているものはみんなこうやって生きていくの。かの有名なあの人だって言ってるわ。人という字は……ってやつ。詳しくは知らないけどさ」
あれ、有名だったのってドラマの方?いや、両方か。
「それに、私はあんたの能力が人より劣っているだなんて思わない。むしろ素晴らしいと思うわ。闘うためだけの力だなんて虚しすぎるじゃない。かっこ悪いって思うからかっこ悪いの。もっと胸をはるべきよ。だって、あんたの能力は誰も傷つけることなく仲間を守れるのだから」
うん、いい事言った。