第1章 魔界
「ねえ、本当にここは魔界だというの?」
当たり前だ、と彼が頷く。
「なら、何か証拠は?」
私はこれでもか、というくらいの悪い笑みを浮かべる。テーマパークの運営的にも、おそらく記念すべき1億人目のお客様、という風にテレビで放送するために隠してあるであろうカメラにも申し訳ないけど、ここは冗談なしでいかせてもらう。もちろん、ここがやっぱりテーマパークだ、となった場合はリアクションを取り直す。
「そうだな………。お前は今、何が欲しい」
突拍子のない質問に一瞬ぼーっとしてしまうが、すぐに我を取り戻す。
「肉料理」
女らしくない?
いや、違うね。最も女らしいと思う。最近の女は何かと肉食だ。肉食系女子って言葉もあるくらいだ。肉が食べたくて何が悪い。
「肉料理か。分かった」
彼は一度頷いたあと、私にした時みたいに、人差し指を立て、ぶつぶつと何かを唱えた。そして私もまた、彼のまつげの長さに圧倒された。
そして、今度も結界が浮かび上がる。その結界の中から飛び出したのは、私が頼んだ肉料理だった。
「どうだ?これが証拠だ」
すごい………と声が漏れそうになったが、無理やり押し殺す。
「こんなの信じない……!私を騙そうとしてるんでしょ?絶対そうっ!」
信じない。
いや、信じられないのだ。
おかしいことに、彼のオーラが何も見えないのだ。だから、彼が本当のことを言っているのかも、嘘を言っているのかも、何も分からない。今まで、そのオーラで相手の本音を知ってきた私にはそれがないと信じることができないのだ。
あれだけこの力を嫌がっていたのにも関わらず、結局はそれがないと私は落ち着かないのだ。皮肉なことに。
「信じてもらわないと困る。お前は────」
吸い込まれそうな程に深い深い漆黒の瞳。私はこの漆黒をどこかで見たことがある気がする。
次に告げた彼の言葉はあまりにも衝撃的だった。
「────この魔界の王女なのだから」