第4章 来客
今の言葉で私の頭はフリーズ状態。
あーあ。
ほんと、この世界に来てから何度フリーズしたことだろうか。もう数え切れないほどだ。
「ごめんなさい、今の私、そんな素敵なアメリカンジョークを笑えるほどの余裕はないの。それで?あんたの正体は?」
私は、おいおい止めてくれよ、とばかりに大袈裟に肩をすくめてみせた。相手が冗談を言ってきたのに対し真面目に返しすぎるのはさすがにマナー違反だ。ある程度のおふざけも私には必要だろう。
「あめ……じょーく………?」
飴ジョーク。
美味しそうね、とはあえて言わないでおいた。
「何言ってんのか分かんねえけど………。いいぜ、何度でも言ってやる」
何度でも?
いや、違う。
私が求めているのは事実だけだ。アメリカンジョークとか、正直もうお腹いっぱいだ。そもそも、面白くもなんともない。
「私は────」
私はそれを聞きたいんじゃない。
彼は私の言葉を遮り、聞き間違いであればいいのに、と思ったあの言葉を紡いだ。
「俺は──の──、ゼラだ」
どうしてだろうか。
重要であるはずの言葉の部分が聞き取れない。
「俺はなに?」
「だから、俺は──の──ゼラだ」
どうして?
なんにも聞こえない。
「どうして聞こえないの。もう一度お願いできる?」
「俺は…………ってお前が耳ふさいでるからだろうが!」
大男に腕を掴まれ、耳元でぎゃあぎゃあ怒鳴られる。
「ええ、そうよ!耳を塞いで聞こえないようにしてたわ!だからなんだって言うの!」
「あ!?なんでお前がキレてんだよ!?」
彼の言い分が正しい。
自分でも、はあ?と思うくらいに矛盾しているし、完全な逆ギレだ。
でもここは言い訳をさせてほしい。
だって仕方ないじゃない。目の前のこんな人が前魔王の息子だとか言うんだもの。私の母は前魔王の妹だとルシファムから聞いている。つまり、自らを前魔王の息子だと名乗るってことは私のいとこにあたるということだ。こんな人が親族?考えなくもない。だから少しの苛立ちくらい、許してほしい。
これが私の言い分。
誰だって、このゼラとかいう人が親族だ、なんてなったらショックを受けるに違いないもの。