第1章 魔界
「うぅっ、なんでこんなことに……」
私はなぜかお城のような所に連れてこられた。
「ばかだ……ばかやろーだ……」
あんな渦にどうして手を突っ込んでしまったのか。今の私からすれば、謎しかない。私の人生の中での七不思議のうちのひとつに入るほどに!
このまま処刑されるのだろうか……。
私は誰もいない玉座の前でただひとり、見張りさえもいない状態で座り込んでいた。
「□☆♪※〜!*」
「はあ?」
思わず喧嘩腰で聞き返してしまった。あまりにも理不尽すぎる状況下に置かれてしまったからだろうか。
ただ、本当に何を言っているのか分からないのだ。
こつ、こつ……と、ホールに響く甲高い足音。一体どんなやつなのか、と私は俯けていた顔を上げた。
「ほぉ………」
なかなか悪くない。
正体は男だった。
それも、かなり高貴そうな。
私と同じく、黒の服を身にまとい、腰にはなんとも強そうな剣を下げている。
そして驚くはその端正な顔立ち。
筋の通った高い鼻に、少し薄めの形のいい唇。少し釣り上がった目に光る瞳は彼の髪に負けないほどに深い黒。
でも、やっぱり………
「△☆?※♨◆!」
「はあ?なんて?」
何言っているか分からない。
目の前の彼は私の目の前にしゃがみ、整った形の眉をひそめ、悩む仕草を見せた。
「な、なんなのよ……」
強がっては見せるけど、怖い。
だって…………、オーラが見えないから。
彼は急に何かをぶつぶつと唱えだした。人差し指を立て、自らの口の前へと持っていき、そっと瞼を閉じる。彼のまつげの長さに驚きを隠せないでいると、彼の目の前に紫の光る結界のようなものが現れた。
「へ?は?へ??」
その光が私の中に入ってくる。痛くもなんともない。ただ、少しだけ頭がくらっとした。
「おい、どうだ」
「はあ?どうだって何が?」
ん………?
え、今………
「なんで日本語喋ってんの!?」
さっきまで、宇宙人みたいな変な言葉しか喋ってなかったのに………。
すると、目の前の彼が馬鹿にしたように鼻で笑った。
「それは違うな。お前が俺と同じ言葉を喋ってんだよ」
頭の理解が追いつかない私を知ってか知らないでか、また意味深な笑みを浮かべた。
「ま、とりあえず………。よく来たな、さやか」