第3章 白い皇子
結構無理やり連れてきちゃったから、嫌がっているのかなと思っていたけど、帰りたそうな仕草は見せてこない。私はとりあえず、紅茶を出した。
「あ、あ……ありがとう、ございます」
「いえいえ」
どこから聞けばいいのだろうか。
この紅茶は彼を落ち着かせるためのものであり、私の考えをまとめるための時間稼ぎでもある。
「………ねえ、顔を見せて」
彼が紅茶を飲む手を止める。それでも私は続けた。
「私はリアムの顔を見たいの」
リアムが両手を膝の上に置き、じっと固まる。どうして彼はこんなにも自分が嫌いなのだろうか。と、そこまで考えて私の動きもぴたりと止まる。
私も私が嫌いだ。
なのに、どうして彼が責められようものか。
「ぼ、ぼぼ、僕はっ…………し、白いから………!顔も、髪も……白いから」
「どうして白いとだめなの?」
私には白いことの悪さがわからない。とても綺麗だったと思う。彼の肌も髪も。
「ま、魔界は………黒が好まれる、から」
その言葉にはっとする。
確かに私も、この黒髪と黒い目だと褒められた。しかも、ルシファムもこの魔界で私を除いて唯一の黒髪、黒瞳の持ち主だと言っていた。
「でも、黒くなかったらだめだってこともないでしょう?だって、黒い人なんて私とルシファム以外にいないじゃない」
私の言葉にリアムが顔を上げた。その拍子に彼の目がちらりと見える。初めてあった時と一緒。光り輝いて見える。
「しっ、しし、白は黒とは真反対の色ですっ………!そんな色が好かれるわけがないでしょう!?」
「だから、ずっとこうして身を潜めてきたの?」
彼がこくりと頷く。
なんて………なんて寂しい人なのだろう。白かったらだめだ、なんて誰もいうはずがないのに。
白が嫌いな魔界人がこの魔界の象徴である城の庭に、ラ・ルイーゼをあんなにも植えるだろうか。あんなにも白く輝いた魔界に映えるあの花を、邪魔だという人がいるだろうか。むしろ、あれは好まれているのではないだろうか。確かに魔界の人々が黒が好きなのは本当だろう。でも、こんな真っ暗な闇の中で黒が引き立つ訳がない。白という真反対の色があるからこそ、引き立つ。そして白も、黒という真反対の色があるからこそ引き立つのだ。
白が嫌いだなんて、誰もいうはずがないのだ。