第3章 白い皇子
私はミアーシェに手を引かれ、庭まで出た。ミアーシェに目隠しをされてしまったのだ。固い廊下の感触から、ふわふわとした草の感覚に変わる。
「王女様、もう少し我慢してくださいね」
そう言ったミアーシェの声はどこか明るくて、無邪気だった。
彼は今、どんな顔をしているのだろう。見てみたい。
そう思った。
なんだろ?すごく、くすぐったい。胸のずっと、ずーっと奥の方がくすぐったい。手を当てても、それは治らない。こうやって、ミアーシェと楽しく笑い合える日々がずっと続けばいいのに。そう、思った。
多分、私の中でのミアーシェは、しっかりしてて可愛い弟って感じなんだ。すごく、大事。
「着きました。それでは目隠し、取りますね?」
「うん!」
私の想像しているラ・ルイーゼは、薔薇のような華やかな花だ。見た者をたちまち虜にする、豪華な花。色は………黄色?ピンク?それとも、赤?
私はわくわくしながら、そっと目を開けた。
「っ…………!すごい………」
それは私の想像していた通りのようで、全く違っていた。見た者を引き付けてやまない花なのは確かだ。でも、薔薇のように豪華でもなんでもない。一見その花は、どこにでもあるような花なのだ。
「これが………ラ・ルイーゼ………」
私の周りを囲むように一面に咲いた白い花。それは人間界でいう鈴蘭…………いや、シロツメクサのようなどこにでもあるような花だった。でも、その一つ一つが闇に負けじと、白く光り輝いている。それも、ほんの僅かな輝き。蛍ほどに儚く優しい光。闇に包まれた魔界に、それはすごく映えていた。魔界の闇とラ・ルイーゼの光が互いに引き立て合い、なんとも言えない景色を生み出す。
「とても、綺麗でしょう?」
私の後ろにいるミアーシェが優しく尋ねる。
「うん…………うん、すごく綺麗」
多分私は、これから一生何があってもミアーシェと見たこの景色を忘れないだろう。