第3章 白い皇子
魔界での生活も、もう一ヶ月経とうとしている。
私が連れてこられた城は多分、すごいところなんだと思う。うん。魔王が住むくらいだ。魔界の象徴だと言ってもいいだろう。だから、もっとマナーとかに厳しいのかと思ってたのだけど………、意外とルーズだ。例えば食事。コース料理とかじゃなく、バイキング形式で私も変な気を張らなくてすむ。それに、食事中にどれだけ喋ろうが怒られない。ルシファムに対しても、敬語を使わなくても、名前に様を付けなくても怒られない。
「ねえミアーシェ」
私は部屋でくつろぎながら、私の側で待機しているミアーシェに話しかけた。
「はい、なんでしょうか?」
「このお城、庭とかない?」
そう。
暇すぎるのだ。
確かに人間界では引きこもりだった。だが、なぜかここに来てからは不思議と活発なのだ。力が有り余っている。それに、私は元々は活発な………人間、なのかもしれない。元はと言えば、私の生まれ持った能力、つまりは、魔界の住人ならば誰しも持っている『魔界の住人の証拠』とも言ってもいい変な力を持っていたが為に人間不信だったのだ。だから、引きこもりだったんだ。今が本来の私なのかもしれない。
「ええ、ございますよ。今の時期なら、そうですね………ラ・ルイーゼが綺麗な花を咲かせているのではないでしょうか」
「ら………るいー、ぜ?」
聞き慣れない発音と聞いたこともない花の名前に私は首を傾げた。そんな私を見て、ミアーシェがくすりと笑う。本当に、ミアーシェはよく笑うのだ。最初の頃が嘘のように可愛らしい笑みを浮かべる。私の自我が目覚めたのと同じように、おそらく今の彼こそがミアーシェなのだろう。
「ラ・ルイーゼ。魔界は常に闇に覆われていますから、人間界の花はなかなかここにはありません。ですから、ラ・ルイーゼは魔界特有の花なのです。おそらく、ご存知ないのでは?」
ミアーシェがどこか得意げに言う。でも、なぜかルシファムに対するようなイラッて感じがない。この可愛さに毒気がすべて解毒されているのだろうか。
「うん、知らない。どんな花なの?」
と、私が問うも、ミアーシェはいたずらっぽいく微笑んで見せるだけだった。
「ご自分の眼でお確かめください」