第2章 初めて
無事に今日も一日が終わる。
私は今そう信じていた。
今この瞬間までは。
「あうっ………うっ、はあっはあっ………!」
お風呂から上がり、ミアーシェと人間界でいう紅茶を楽しんでいると、急に体が熱くなってきた。決して、のぼせた訳でも、お茶が熱すぎる訳でもない。体の奥………ずっとずっと奥の方から熱が溢れてくるのだ。
「王女様っ!?」
持っていたカップを床に落としてしまう。高そうなカップを割ってしまった。でも、そんなことを気にしている余裕などない。
「熱い………体が、熱い………」
頭がくらくらする。気持ちもどこかふわふわと宙に浮いたような感じがする。
「王女様っ………」
ミアーシェがなぜか悔しそうに、苦しそうに顔を歪めた。どうしたのか、と聞きたいけれど、口からは荒い息が漏れるだけだった。
「ミ、ア………シェっ………」
そしてミアーシェは何かを決心したかのように私を見つめた。
「応援、しております」
と、どこか寂しそうな笑みを浮かべて。
「はぁっ………ミア、シェ……?」
ミアーシェは床に手をつく私を抱き上げた。抵抗する力さえもない私はされるがままに身をゆだねた。
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連れていかれたのは、私の部屋から随分と離れた場所にある部屋の前。ミアーシェが扉を軽くノックする。
「ミアーシェです」
意識が朦朧とする中、私は必死に自我を保った。
「入れ」
部屋の中から聞こえてきた声はよく知っている人のものだった。
「失礼いたします」
部屋の主………ルシファムがミアーシェに抱えられた私を見て、目を見開いた。
「どうした?」
ルシファムの視線が私に注がれる。私は震える声を振り絞った。
「体、が………熱いっ………はぁっ」
その一言で、ルシファムは何かを察したようだった。納得した様に頷き、ミアーシェと目でやり取りをする。そしてミアーシェが私をそっとルシファムの部屋にあるベッドに運んだ。そのふかふかとした感触に私は目を閉じた。
「ミアーシェ、悪いな」
「いえ、私の仕事ですので」
それだけ言い残し、ミアーシェが部屋を出ていく。
「さやか、今楽にしてやるからな」