第2章 初めて
「うぅっ………緊張する………」
私は今、魔界の国民の前に立っている。『帰ってきた王女を歓迎する』とかなんとか。帰ってくるも何も、私は地球生まれだ。
「もう限界か?」
と、隣に立つルシファムがバカにしたような顔で私をちらりと見た。
「いいえ、全然っ!?むしろ楽しいわ!」
と、強がりを言ってはみるが、余裕の笑顔はさすがに作れない。ルシファムが意味深な余裕の笑みを私に向ける。悔しい。悔しいけど、確かに限界だ。元引きこもりだった私には辛すぎる。
もう帰りたい、と後ろを振り向くと、民衆からは見えない位置にミアーシェが私を見守ってくれていた。目が合うと、ミアーシェが私に微笑んでくれた。それが嬉しくて、私も微笑み返す。まだまだ頑張れそうな気さえしてきた。
「………仲がいいな」
ぼそっと聞こえた声に、私はルシファムを振り返った。
「え?」
「別に。随分と仲良さげだな、と言っただけだ」
言っている内容とは違い、随分と棘のある言い方に、私は少しカチンときた。でも、ここで声を荒らげては………と自制する。見ると、ルシファムの顔が少し不機嫌そうだ。
めんどくさ、と私は心の中で呟いた。
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「あー…………終わっ………たぁ!」
どれだけ長い間笑顔で手を振っていただろう。もう限界なんて生ぬるい。
私は部屋にある天蓋付きベッドに寝転がる。
「王女様、昼食のお時間です。こちらのドレスを」
今回のドレスは淡いピンク。
「やだ」
幼稚だとは分かっているけど、着替えばっかりでうんざりなのだ。どうせルシファムしかいないのだから、別にいいじゃない。
「王女様。だめです」
ミアーシェがきっぱりと否定するも、私だって負けてはいられない。
「いやだ。私は一着で充分!」
しばらく睨み合いが続く。
先に折れたのはミアーシェだった。
「………分かりました。せめて、これにだけでも着替えてください。そのドレスは公の場に出られる時専用のドレスですので」
ここくらいは私が妥協しなければ話が進まない。私は今着ているドレスを脱いで、ミアーシェが用意してくれたドレスを身につけた。