第1章 魔界
「ミアーシェ、さやかを部屋に連れていけ」
すると、どこから聞いていたのか、ミアーシェがさっと現れる。
「また、あとでな」
と、意味深な笑みを浮かべて、ルシファムが部屋から出て行った。どういうこと?と私が首を傾げていると、ミアーシェが教えてくれた。
「王女様にはこの後、民衆の前に立って頂きます」
「は、はあ!?」
だって、そんなの聞いてないし!ってか、なんで!?
「王女様が帰ってこられた、と民は貴女様の姿を見るのを楽しみにしております。お元気な姿をお見せになってください」
いやだぁ………。
めんどくさいし………。
あ、仮病使うとか?
うん、そうしよう。
と、私が密かに悪巧みをしていると、ミアーシェが私を見据えてこう言った。
「その手は通じませんので。どうしても気分が悪い、というのであればお薬を召していただきます。魔界のお薬はとても苦いので、お覚悟を」
口には出していないはず、と動揺を隠せないでいると、ミアーシェが扉を支えながら私を見据える。
「私は人の心を読むことが出来るのです。ルシファム様からお聞きになりませんでしたか?」
「あ、あー…………」
言われた………。
言われた気がする………。
ルシファムの言っていた内容がぶっ飛びすぎたのと、難しすぎたので、完全に忘れていた。
すると、崖っぷちに立たされたような私のこの顔を見ていられなかったのか、ミアーシェが扉を支えていた手を退けて、私に近づいてきた。
「王女様、失礼いたします」
私が、え?と固まっている間にも、ミアーシェは私を壁へと追い詰めて、私の股に自分の脚を挟んだ。逃げない様にする為だろう。
「な、なに………?」
私の問いに答えずに、彼を押し返そうと奮闘している私の両手を片手で壁に固定される。私とそう身長の変わらないミアーシェは、華奢な割に力が強かった。
人間とドラゴン一族との差だろうか。
そして、ミアーシェが空いた片方の手で私のドレスの胸元を押さえる。何をするのか、と私が問う前に、彼は私の左鎖骨より若干下辺りに、自らの唇を寄せた。
「な、なにっ………、んっ」
皮膚を軽く吸われ、変な声が出る。
やめてほしい。
そう思うのに、私の体は熱を帯びていくばかりだった。