第1章 魔界
「あー、ちょっとタンマ!なんで私はここに連れてこられたの?」
難しい話ばかりで、頭が機能しなくなってきたから、私は一番気になっていたことを口にした。他のことは、そのうち分かる時が来るだろう。
「お前が王女だからだ、と何度も言っただろ?」
と、毎回お決まりの答えが返ってきた。
なんで私は連れてこられたの?
────王女だから。
この繰り返し。
こんなので納得出来るわけがない。私は魔界なんかに関わったことなんて、20年間一度もない。
ルシファムが、やれやれ、とでも言うようにため息をつきながら、説明をしてくれた。
「他の人間と、何か違うと感じたことはあるか?」
あまりに唐突な質問に少し戸惑う。
「え?あ、ああ………確かにある。物心がついた時にはもうすでに、人ではないものが見えていた。………まさか、これが今の状況に関係ある、とでも言いたいの?」
私は、信じられない、と彼に目を向けた。
「ああ、大ありだな。お前は選ばれた魂だったんだ。だから、お前には奇妙なものが見えていた。魔界の住人ならば、誰しも持っている能力だ」
彼が何を言っているのか、私は理解出来なかった。だって、私は人ではない、と断言されたかのようだったから。
「なら、どうして魔界ではその能力が発動しないの?私はここに来てから、何も見えない。その人のまとうオーラも何も」
「俺が抑制しているからな。お前の能力は強すぎる。多分、魔力に慣れていないお前には制御しきれないだろう」
本当に?
ルシファムはそう言っているけど、彼の言っていることは本当だろうか。だって、能力がない今の私は彼にとっては操りやすい存在だ。嘘をついても、私は見破ることが出来ないのだから。
「安心しろ。俺は嘘をつかない。俺を信じろ」
そう強く言い切った彼の瞳は、真っ直ぐに私を捉え、決して揺らぐことは無かった。
「………分かった。あんたを信じる」
なぜ、こう言ったかは分からない。
信じていない訳では無い。でも、信じている訳でもない。
でも、信じてもいい、と思えた。
彼なら、信じてもいいのではないか、と密かに思ってしまったのだ。
「ひとつ、いいことを教えてやろう」
私の答えに満足したように頷き、ルシファムがなぜか誇らしげに腕を組んだ。