第15章 No.15
傷口が燃えているのではないか思うくらい熱い。ゴボゴボと口から血が吐き出され続けた。
これは、毒、か。
そう認識した時には、目の前は真っ暗だった。
暗闇の中を一人で歩いていた。
ここは何処だ。
何故ここにいるのかわからない。
自分が誰なのかも分からなかった。
足元を見るが、そこに道はない。上も下も右も左も、ひたすら暗闇だった。
訳も分からず歩き続ける。
先は見えない。
只、光を求めた。
と、前方に淡い光が差し込んだ。
それは徐々に人型になり、やがて一人の女になった。
オレはその女を知っていた。
長く艶やかな黒髪、黒曜石の様な大きな瞳、優しく微笑むその女は…。
会いたかった、誰よりも愛しい、
「ゆき…」
オレは走り出した。
その愛しい女の元にたどり着きたかった。
しかし走っても走っても距離は一向に縮まらない。それどころかゆきの姿がどんどん遠退いて行っていた。
「待て!待ってくれ!」
息を切らせながら追いかける。
ゆきの姿は更に遠退く。
「ゆき!行くな!オレを置いて行くな!」
ゆきの姿が薄れてきた。
「待ってくれ!嫌だ!オレの傍にいてくれ!ゆき!」
とうとう、ゆきの姿は消えてなくなった。
「ゆきーー‼︎」
再び訪れた何処までも黒い静寂に、叫び声だけが響いた
途方に暮れて立ち尽くす…。
しかし、
「トシさん」
優しい声が鼓膜を震わせた。
うっすらと目を開くと、薄暗闇の中にゆきがいた。
瞳を不安げに潤ませてオレを見ている。
「ゆき…」
ああ、やっぱり戻ってきてくれた。
「ゆき…、よかった…。どこかに、行っちまったか、と思った…」
ゆきが再び現れてくれた事に安堵する。
燃えるように熱く動かない身体を無理矢理動かせて、ゆきに手を差し出した。
ゆきはそっと握ってくれた。
「ゆき…。どこにも、行くな…。オレの、傍に、いてくれ…。オレを…、置いて、行かないで、くれ…」
思うように口が動かない。
途切れ途切れに言うオレに、ゆきの瞳から真珠のような涙が零れ落ちた。
「泣、くな…。オレが、護るから…」