第23章 No.23
「見合いの話、知ってたのか」
夜、2人で縁側で晩酌しながら話す。
ゆきは徳利を静かに盆に置くと、頷いた。
「松平様がいらっしゃっていたので、お茶をお出ししようと客間に行ったら、お二人の声が聞こえて…」
ゆきは俯いて「ごめんなさい」と謝った。
「謝ることはねぇさ」
オレはグイと杯の中の酒を飲むと、ゆきの頭を撫でた。
「見合い話はちゃんと断ってきたから」
ゆきは潤んだ瞳でオレを見る。
「トシさん…、本当に私なんかで…」
しかしオレはそれを遮った。
「ゆき、オレが好きなのはおまえだけだ。オレの妻になるのはおまえしかいないんだ」
オレはゆきの左手を優しく撫でた。月夜に一粒の宝石がキラリと光った。
「だから、“私なんか” なんて言うな。オレはおまえじゃないとダメなんだから」
そう言ってゆきの唇にゆっくりと口付けた。
「ゆき、ずっと、ずっと、そばにいてくれ…」
「…はい…!」
桜色の唇が返事を紡ぐと同時にまたそれを塞いだ。今度は激しく。
そして熱く、熱く、想いを通わせる。
重なる二つの影。
煌めく三日月にすら祝福されているようだった。
これから、いつでも、どんな時も。おまえとなら、生きていける。
オレとゆきとの、恋愛白書。
完