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十四郎の恋愛白書 1

第15章 No.15


落としそうになった盃を持ち直し、呑み干す。

「どうだね?」

ニタニタと笑うその顔に、「美味しいです」と返しながら、こっそり片手を袖から抜き、懐へ持って行く。潜ませてあった注射器で自分の鳩尾あたりを突き刺さした。

媚薬に対する中和剤だ。

しかし直ぐには効かない。赤らんだ頬に身体を震わせるオレに、高官はいやらしい笑みを浮かべながら、オレの太ももに手を這わせてきた。

「土方くん、キミの態度次第では、今後真選組への資金割りを見直してもいいと考えている」

酒臭い息を吐きながら男はオレににじり寄る。
その言葉に、オレは男の胸にふらりと倒れ込んだ。獰猛な劣情を目に宿す男の首に抱き着くように手を回すと、男はオレが落ちた、と確信したようだ。鼻息荒くオレの着物に手を掛けた。
その首筋にプスリ、と注射器を刺してやった。

「…!」

男は目を見開いて動作を止めたが、やがてグラリと倒れ込んだ。
自分の方へ倒れてきた男を乱雑に退けて、立ち上がる。

「はっ、このオレを手篭めにしようなんざ、一億年早ぇんだよ。この変態が!」

倒れ込んだ男を足蹴にゴロンと仰向けにした。白目を剥き、だらし無く開いた口からはヨダレが垂れている。男の盛り上がった袴の中央を見て反吐が出そうになった。

袂から携帯を出し、迎えに来るようにテツに電話する。15分程で来るだろう。

煌びやかな懐を開けるとやはり隣室には紅い布団が敷いてあった。
無駄に贅肉ばかり付いている高官を引きずり布団に押し込むと、適当に着物を乱してやる。
男に刺したのは幻覚剤。今頃はいい夢を見ていることだろう。



「副長、お疲れ様でした!」

黒いリムジンの前でテツが敬礼する。

「ああ」

それだけ応えると後部座席に乗り込んだ。

「屯所に戻りますか?それとも…」
「遊郭へ行ってくれ」

運転席に乗り込んだテツに指示する。
テツは「了解です」と車を発車させた。

今回のような事は度々あった。
オレの写真集に目が眩んだ狸爺い共が、真選組への援助をチラつかせながら、媚薬を盛ってオレを手篭めにしようとするのだ。

万が一を考えて、予め中和剤を飲んでから宴席に臨む。しかし天人が往来して様々な物が出回るこのご時世、時に強力な媚薬を飲まさせることがある。その時は今回の様に懐に忍ばせた中和剤を再度体内に注入するのだ。

「うっ…!くっ…、」


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