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十四郎の恋愛白書 1

第15章 No.15


少し前に送られてきた、ゆきからの手紙だった。

オレの事を心底心配している、早く元気な姿を見せて欲しい、といった内容が書かれてあった。
ピンク色の封筒に、綺麗な細い文字で
『 土方十四郎様 』
と宛名書きがある。

オレは1日に何度もその手紙を眺めていた。
その手紙に触れていると、ゆきの暖かい心に触れているようで心が安らいだ。


返事は、出さなかった。


ゆきのことは諦めようと思った。
総悟はなんとかゆきを真選組に引き入れようとあれこれ画策しているみたいだが、オレはゆきを自分が進む茨の道に引き込みたくなかった。

結局はミツバの時と同じだ。
オレでは幸せにはしてやれない。


目を閉じると柔らかく笑うゆきの姿が浮かぶ。

それが万事屋とでもいい。どうか幸福な人生を歩んで欲しい。


その願いを込めて、ピンク色の封筒をサラリと撫でた。








金色の襖に囲まれた、豪奢で贅を尽くした室内。正面に誂えられた舞台では色とりどりの着物を着た芸妓達が踊りを披露していた。

「キミの武勇伝はかねがね耳にしているよ」

様々な彩りが散りばめられた豪華な膳を前に、幕府の高官である男は上機嫌でオレに酌をした。

「恐れ入ります」

恭しく頭を下げると、盃の中身をグイと呑み干す。


写真集が発売されてから、もう1つ変わったことがある。幕府の高官の接待によく名指しで駆り出されるようになったのだ。

今夜も勘定方の高官の接待で高級料亭に赴いていた。

50代程であろうこの高官は、自分の今まで成し得た業績を大袈裟にオレに話して聞かせた。
オレは延々と続くそのくだらない自慢話を、笑みを貼り付けた顔で応えていた。

やがて芸妓達の舞が終わり退室して行くと、高官は酌をしていた女達も下がらせた。

「ここの料亭で、とっておきの酒があるんだ」

そう言って大き目の徳利を出すと、高官はオレに得意げに見せる。

きた、と思った。

でっぷりと太り、金糸をふんだんに使った趣味の悪い羽織から伸びる毛深い腕が、オレの盃にトクトクと酒を注ぐ。

「飲んでみなさい。すごく美味しいよ」

ニタリと気味の悪い笑みを浮かべながら勧める高官に、少し頭を下げてから口に付ける。
ゴクリ、と飲み込んだ瞬間、カッ!と身体が熱くなった。

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