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十四郎の恋愛白書 1

第14章 No.14


近藤さんが止めに入っていなければ、二人とも無事ではすまなかった。

阿修羅の歩む道には争いが引き寄せられる。悪鬼が群がって来る。ゆきをそれに巻き込みたくなかった。

随分前に聞いた山崎の言葉を思い出す。


『でも、オレは見てるだけでもいいかなって思ったんです。たまさんのことが好きだから、たまさんが幸せでいてくれるのを遠く見守れたらいいって思うんです』


「 見守る…か…」

今ならあの時の山崎の言葉が分かるような気がした。

自分と一緒にではない幸せを掴む女を見守る…。

右手の木刀を、ギュッと思い切り握る。

ゆきにとってオレは「兄」の様な存在に成り下がってしまった。
もうゆきはオレを見てくれない。



これで、いいのかもしれない。



ひやりと影を濃くし始めた道場に、またポタリ、と汗が頬を滑り落ちた。




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