第14章 No.14
総悟は道場の壁にもたれかかりながら、尚も何か言いたげにオレを見ていた。
普段なら要件が済めばさっさと立ち去る男のそんな様子に、オレは再び手を止めて総悟を見遣る。
「どうした?」
総悟は少し逡巡すると、言葉を吐き出した。
「万事屋の旦那と、ゆきさんが、いい雰囲気なんでさぁ」
「………」
オレは何も答えずにまた木刀を構えた。
「なんで黙ってるんでさぁ‼︎ ゆきさんを取られるかもしれねぇんですよ⁉︎」
総悟は拳を握り締め、必死で訴える。
「あんたはもうゆきさんの事か好きじゃねぇんですかぃ⁉︎」
珍しく取り乱す総悟にオレはゆっくりと向き直った。
「総悟、オレは今でもゆきの事が好きだ。誰よりも愛している。しかし、もしゆきが万事屋を選ぶなら、それはゆきの意思だと受け入れるつもりだ」
「はぁ⁉︎ 意味分かんねーよ‼︎ 好きな女を他の男に取られて、あんた平気なのか‼︎」
総悟は癇癪を起こした子供の様に、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「平気なワケはねぇ。だがゆきがそれを自分の幸せだと決めたのなら、オレはそれを見守る。万事屋はちゃらんぽらんな男だが、惚れた女は護り抜く野郎だ」
総悟の目を真っ直ぐに見て答えたオレに、総悟は顔を歪めた。
「オレはイヤだ‼︎ ゆきさんには真選組にいて欲しい‼︎ だからあんたに譲ったんだ‼︎ あんたならゆきさんを繋ぎ止めていてくれると思ったから‼︎ 」
「総悟、おまえ…」
総悟はゆきにミツバの影を見ているのかもしれない。オレは初めて気が付いた。
「ゆきさんは万事屋にはぜってー渡さねぇ‼︎ 」
そう言って総悟は道場を飛び出して行った。
道場の床にくしゃりとヘタる、んまい棒の包み紙を拾い上げる。総悟のポケットから落ちたものだ。
『好きな女を他の男に取られて、あんた平気なのか‼︎』
先程の総悟の言葉が胸を突き刺す。
「平気なワケねーよ…」
こんなにも好きなのだ。
誰にも渡したくなんてない。
しかし、先日の総悟との死闘の際、思い知らされた。
自分がいばらの道を歩む、修羅であることを。
いつの間にか周りが見えておらず、仲間で、弟分である筈の総悟を、本気で殺そうとしていた。