第14章 No.14
「だって、オレ10億円なんて持ってないしぃ‼︎ 真選組はいつもビンボーだしぃ‼︎ お金入ってくるっていうしぃ‼︎」
………この人が局長で本当に良いのだろうか。
だが近藤さんが総悟に甘いように、オレも近藤さんには甘いのだ。 総悟にはそれが分かっているのだろう。
「〜〜〜‼︎ 、あぁ、もう!分かった!分かったから泣くな!あんたここの大将だろ‼︎」
結局いつもオレが折れてしまうのだ。
ニヤリと笑う総悟。パッと顔を輝かせる近藤さん。
ほんと、オレって苦労性。
「但し、条件を付けさせてもらう‼︎」
オレはビシッと4人に人差し指を突き付けた。
その日から
『土方十四郎の写真集を見た者は切腹』
新たな局中法度が生まれた。
あれから隊士達のオレを見る目が変わった気がする。
じっとりとした視線を向けられて、ゾワッと寒気がすることが多くなった。
ただの被害妄想だろうか。
とりあえず、タオルを巻いて風呂に入るようになった。
「土方さん、またマスコミが来てやすぜぃ」
道場で一人素振りするオレのところに、総悟が来た。
「よくもまぁ、毎日飽きもせずあれだけの人数が来れやすねぃ」
総悟は懐からんまい棒を出すとボリボリ食べ出す。
「ほっとけ。そのうち飽きるだろ。道場内飲食禁止だ」
オレが素振りを再開させながら言うと、総悟は片眉だけ上げた。
写真集発売以降、マスメディアが屯所の周囲をウロつくようになった。チンピラ警察と名高い真選組の副長の『ホモ疑惑』が世間を騒がせているのだ。
談話室のテレビもうかうか付けることが出来ない。ワイドショーや情報番組で、テレビ画面いっぱいに自分の痴態(四つん這い写真)が映った時は、このまま死んだ方がマシなのではと真剣に考えた。
そして、ゆきに会えていないのが一番こたえていた。
「ゆきさんに会わねぇんですかぃ」
総悟はんまい棒の包み紙を丸めると、ポケットに突っ込む。
「会えねーだろ。今会いに行ったら、ゆきにまでマスコミが押し寄せる。迷惑かけたくねぇ」
ブン!と木刀を振り下ろす度に、顎から汗が滴り落ちた。
もう3週間も定食屋に通っていない。
夜の迎えも、山崎と原田に頼んでいる。
会いたい。ゆきに会いたい…。
そんな想いを振り払うように、ひたすら木刀を振り続けた。