第14章 No.14
オレは後ろから羽交い締めする原田の腕をガシリ、と掴まえた。
「なんとかゆきさんの床を拭き上げるスピードにボールペンの転がるスピードを合わせられるように、綿密なる計算と技を磨き、なんと本番は一発で大成…」
「うがぁ‼︎‼︎」
渾身の力で、原田を思い切り総悟に投げ付けてやった。
ドゴーン‼︎
「「ぐはぁ‼︎」」
大男の原田と共に、総悟は壁にめり込んだ。
「んな事に無駄な労力使ってねーで、仕事しろーー‼︎」
もうダメだ。オレはきっといつか、総悟の所為で頭の腺が切れて死ぬに違いない。
「とにかく! この写真集は一刻も早く廃版、回収、焼却だ‼︎ すぐに大江戸出版に連絡しろ‼︎」
抜刀して切っ尖を突き付けながら怒鳴り付けた。
「そうだぞ、総悟。これは盗撮の写真がほとんどの上に、本人の許可を得ず掲載されている。肖像権の侵害だ。立派な犯罪だぞ」
近藤さんも眉間に皺を寄せて総悟を嗜めた。
しかし総悟は「いてて」と壁から起き上がり、パンパンと埃を払うと、爆弾発言をした。
「それはできやせん。この写真集の契約は、片方の都合による一方的な契約反故の場合、10億円の損害賠償を支払うことになってるんでさぁ。そして、契約人は…」
総悟は胸ポケットからカサリ、と折り畳まれた白い紙を出すと、オレ達に向けて広げて見せた。
『契約人 真選組 局長 近藤勲』
「なんだとぉーー⁉︎‼︎」
今度は近藤さんの驚愕の叫びが響いた。
契約書を持ってワナワナ震える近藤さんに、総悟は声を落として耳元で囁いた。
「安心してくだせぇ、近藤さん。今朝大江戸出版から、この写真集は大好評で飛ぶように売れてると連絡がありやした。そして売り上げの10%が真選組に入ってくる契約なんです」
近藤さんがピタリと止まる。
更に総悟は悪魔の囁きを続ける。
「かなりの額が入ってくるはずですぜ。これでしばらくは真選組の財政難も凌げるってワケでさぁ」
「 ‼︎ 」
総悟の口車に乗せられた近藤さんは、グリン!とオレに向き直るとオレの隊服の裾に縋り付いた。
「トシィ‼︎ 勲の一生のお願い‼︎ この写真集の廃版取り止めてぇ‼︎ 」
「アホか!なんでオレがこの身を削らなきゃならねーんだ‼︎」
オレはバッと近藤さんを振りほどく。
近藤さんは畳に平伏しておいおい泣いた。