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十四郎の恋愛白書 1

第14章 No.14


真っ白に灰になるオレからゆきはスルリと体を離すと、うーん、と伸びをした。

「それにしても、海ってやっぱりいいですよね。私、まだ2回しか来たことないけど、波の音、好きなんです」

そしてまさかの、海2回目発言。

「夏に初めて総悟くんに連れて来てもらった時は、夜でも暑かったから水に足を浸けたりできたんですよ」

嬉しそうに総悟の話をするゆき。

何コレ。一体どうすればいいんだ。

固まるオレをよそに、ゆきは再び波と戯れ出した。静かな海岸にゆきの一人はしゃぐ声が響く。

灰になったオレの心がサラサラと波風に飛ばされて行った。
HPはゼロどころかゲームオーバーの気分だ。




誰か、助けて下さい。







「いらっしゃいませ」

定食屋の引き戸を開けると、いつも通りのゆきの笑顔。

「おぅ」

オレは片手を挙げて応え、いつものカウンターに座る。

「いつもの頼む」
「はい」

混雑する客の間を縫うように動いて接客するゆき。土方スペシャルを掻き込みながらその姿を目で追うオレ。

「ハイ、今日もお仕事頑張って下さいね!」

渡されるゆき特製マヨの風呂敷包み。

「サンキュ。じゃあまた今夜迎えに行くから」

ゆきの笑顔と「いってらっしゃい」を背に店を出る。

戻ってきた日常。





紺色の風呂敷包みをぶら下げながら、屯所までの道を行く。

「はぁ〜」

自然と溜息が出る。

入れ替わり事件以降、ゆきとの仲は進展するどころか後退だ。こうやって毎日定食屋に通っているが、オレを見るゆきの瞳に以前程の“異性に対する意識”は見受けられない。何と言ってもまさかの“お兄ちゃん”なのだ。

かれこれ2週間も打開策が見当たらず、しょんぼりと項垂れながら歩いていると、チラチラと視線を感じた。

「?」

不思議に思い周囲を見回すが、特に殺気などの敵意ではない。よく女から感じる好意の視線でもない。いや、それも多少混じっているか?しかしどちらかというと、興味、みたいな感じの視線だ。しかもかなり複数だ。

しばらく歩くが視線は次々と降り注ぐ。

通行人が男女問わず自分の顔をジロジロ見てくるなんて、はっきり言って居心地が悪い。

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