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十四郎の恋愛白書 1

第14章 No.14


「もう!私はそんなにちっちゃくありません!」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ」

拳を振り上げるフリをするゆきに、オレも慌てて逃げるフリをする。

ほら、また心が暖かい。

追いかけて来ようとするゆきの手を掴んで引き寄せる。
よろめいた身体をそのまま腕に閉じ込めた。

ザザァ、と波音が二人を包む。

やっぱり好きだ。どうしようもないくらい。

「トシさん…」

隊服の胸元をキュッと掴む小さな手に、愛しさが込み上げる。

しばらく波の音を聞きながらゆきを抱き締めていた。

「なんだか変な感じですね。やっと自分の体に戻ったのになんだか自分じゃないような感覚です」

ゆきがオレの腕の中で言う。

「そうだな。オレもだ」

昨日まで、この腕に閉じ込めている小さな身体が自分だったのだ。
やっと戻った目線の高さ。着慣れた隊服。腰の愛刀。しかし自分ではないような変な感覚だ。
それでもゆきのことを想う気持ちはずっと変わらない。今、自分の腕に収まるこの女が何よりも愛しい。

オレがゆきの長い髪をさらり、と梳くと、ゆきは擽ったそうに目を細めた。
そこでふと思う。

あれ?これ、なんかすごくいい感じじゃね?
もしかしたら、ここで再告白したら、「トシさん、私も…」とか言って、ゴールインになるんじゃね?

期待が一気に膨らむ。

「ゆき…!オレは…」

「なんだか自分に抱き締められてるみたいです」

言いかけたオレの言葉とゆきの言葉が重なった。

…ん?

ゆきがオレを見上げる。
以前は少し抱き締めただけで真っ赤になっていた顔が、なんというか、…普通だ。

あれ?

戸惑うオレには気付かず、ゆきはニコリと笑った。

「トシさんの声も、腕の中も、前はあんなにドキドキしたのに。この一カ月でトシさんの体に慣れちゃったからかな? 」

な、なに⁉︎

そしてにこやかなゆきのトドメの一言がオレに突き刺さった。

「なんだか自分に良く似たお兄ちゃんに抱き締められてるみたいです」



お、お、お兄ちゃん〜⁉︎‼︎



奈落の底に突き落とされた。

まさかの『お兄ちゃん』。

“異性”として意識してもらってた筈が、まさかの“対象外”に急降格だ。
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